前半は生前単行本未掲載、後半は全くのアニメオリジナル。しかし、どちらも秘密道具の機能から起承転結をしっかり構成したSF小噺というより、とにかく状況が悪化していくギャグ展開だけで押し切った。
作画はまあまあ良かったし、演出もはじけていたが、良くも悪くも真面目に評価しにくい作り。
Aパートは、貝の名前で表わす効能を周囲に発生させる秘密道具が登場。
背中に貝をつけることが効能の発生条件らしいが、後に回らなくても自動的に吸着する描写があるので、物語には関係してこない。うまく背中に回ろうかと攻防する展開があっても良さそうなのに。
のび太は結末で、貝が詰まった標本箱をひっくり返してしまい、しずちゃんへ誤った貝をそれと知らず渡してしまう。多用されていそうで、実はかなり原作でも珍しいオチ。標本箱側に名前が書かれているところや、形からは名前が想像できない貝をモチーフにしたという、秘密道具のデザインがここで活かされた。
しかも恐ろしい出来事が示唆されつつ、それを画面で見せないまま断ち切るように終わった。ギャグからホラーへの切り替わりが絶妙で、想像力にたくすことで恐怖感も増す。
Bパートは……なんだこのSHAFT演出。
そもそもジュースを選ぶソムリエを骨川家が雇ったという発端から変なのだが、他にも色々なソムリエを雇っているという台詞が出てきた時点で、完全に通常の世界観から切り離されてしまっている。あくまでスネ夫はコネだけが凄くて、富豪としては実態がともなっていないところがキャラクターの要点。アニメオリジナルの世界観が悪いというわけではないが、どう考えても今回限りのギャグ設定だよなあ。
「なんでもソムリエ」というロボットが美食を提供するという内容も、美食の内容を克明に見せるという内容ではない。グルメマンガのごとき美食を食べた時のリアクション芸と、美食にたどりつくまでの冒険行に力がそそがれている。いつの間にか冒険が主眼になってしまっているレギュラーメンバーを見て、カメラ目線で「ナニコレ」と台詞で突っ込むドラえもんに嫌な共感をしてしまった*1。
のび太が美食した瞬間に真っ白く彩色されるような演出が多用されたかと思うと、おにぎり*2の米粒をていねいに作画して実際に美味そうに感じさせる。
コンテ演出は今井一暁で、中本和樹が作画監督。ちょっと検索してみると中本和樹はSHAFT出身らしいという情報が引っかかった*3。もちろん演出はコンテ段階で指示されたもので、作画監督が出身者というのは偶然にすぎないだろうが、デフォルメ背景とリアル背景が強調されて混在する画面にSHAFTらしさを感じたことも確かだった。