法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太が出会った仮面の女王

源静香の声優的に、一万年と二千年前から愛してる
水野宗徳脚本、八鍬新之介コンテ演出、田中薫作画監督によるアニメオリジナルストーリー1時間SP。このスタッフ編成らしく、安心して見られる完成度。


原作に存在する秘密道具から台詞回しまで細かく拾っていき、整合性ある一本の物語として提示。ていねいな段取り*1と伏線でつっこみどころをつぶしつつ、危険な冒険行や現地の人々との交流や敵との戦いで起伏ある展開を見せてくれた。
細部や基礎がしっかりしているから、ドラえもんの変装のようなギャグで素直に笑うこともできる。甘栗旬などのカメオ出演も、作中テレビにママが夢中という描写で自然に処理。
予告映像の時点で見当がついていた敵の正体は中盤で早々に推理され*2、あとはしずちゃん奪還劇が娯楽性たっぷりに描かれる。同じように先史時代の日本へ旅する原作大長編『のび太の日本誕生』や、先史文明のシャーマンと戦うアニメオリジナル映画『のび太太陽王伝説』とは敵の正体を巧妙にずらし、未来人という使いまわしの真相でもなければ、SF性が皆無のファンタジーに終わることもない。きちんと黒幕に作中世界での生活感や背景を感じさせつつ、中編としてまとまらせられる適切な規模のドラマに収めた。
最近の考古学的な知識も細かい台詞に反映させたりして、古典的なSFらしい楽しみもある。問題としては「聖域」の地形がいささかファンタジーだったくらいか。


映像面でも満足できる内容だった。
コンテが意欲的で、空や大地の広がりを感じさせる引きの構図を多用したり、怒る寸前のママを前にした不安感をカメラ揺らしで演出したり。闇から仮面だけが浮かび上がっていく描写のホラーらしい間もなかなか。
作画も良く、特に前半でタケコプターが停止して落下する場面と、サーベルタイガーに襲われる場面は、手描きであることを強調した荒々しい描線でよく動かしていた。
ただ、原因がコンテなのか作画なのか設定なのか、明らかにマンモスとサーベルタイガーが人間と比べて大きすぎる*3。視覚的な効果を優先した演出なのかもしれないが、『のび太と海底鬼岩城』のダイオウイカみたいに作中の台詞でエクスキューズを入れてほしかった。

*1:特にタイムマシンで漂流するにいたる流れは、1カット1ガジェットが不足すれば御都合主義になりかねないくらい、繊細な構成になっている。物理的な段取り描写に対する「ピタゴラスイッチ」というジャーゴンを、ツッコミではなく賞賛で用いたくなるほど。

*2:あんまり早すぎたので、つかえている老婆がしずちゃんというどんでん返しがある可能性すら疑ったが。

*3:日本に化石がなくても、いたこと自体に違和感はない。