法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『宵月閑話 はかなき世界に、最期の歌を』佐々原史緒著

これはひどい裏表紙に書かれた「哀しみが哀しみを呼ぶ歌が舞うホラーミステリ。」という惹句に興味を持って読んでみたのだが、推理小説じゃなくて非現実な呪いが主題のホラーじゃないか。
いや裏表紙には真実をさぐるため霊能力者へ相談したという文言もあるが、そういう超能力者や占星術師を自称する名探偵は少なくないから、すっかり騙されてしまった……せめて「ミステリ」という表記はやめてほしい。
主人公の祖母が完全な密室で亡くなっていたという導入も、ミステリの観点から興味を持てたのだが、中盤の交霊描写で超自然現象でないと説明できない物語ということが確定。あとは惰性で読むしかなかった。


生前の祖母に隠されていた心理には伏線もあったし、この心理については伏線が少ないこと自体が現代に忘れられた出来事という痛みを強調もしている。しかしもう一つの隠されていた真相には、全く伏線らしい伏線がない。


呪いを描いたホラーとしては、キャラクターや呪いの伝播方法こそ手垢がついているものの、映像的に印象的な場面が多くて悪くない。中盤とクライマックスでの霊界と交信する場面は絵になる。
toi8の挿絵も良いタイミングで入っていて、新書サイズのライトノベルとしては、客観的に見て悪くない内容だと思う。とにかく裏表紙に騙されなければなあ……まあミステリと記述していなければ読まなかったと思うが。