法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『神様のメモ帳』page.1 彼女について知っている二、三の事柄

初回は原作者の案を基にしたアニメオリジナルストーリー。脚本は水上清資
NEET探偵を自称しながら初事件で現場に乗り込む探偵はさておき。ミステリとしての中心アイデアは悪くないと思うのだが、その展開が悪いため真相開示にカタルシスがない。スタッフが相当に重複している『シゴフミ』初回に、ミステリとしての展開が負けている。


特にまずいのが、援助交際と思わせた美人局という展開を、いきなり序盤から見せてしまっていること。だから探偵の捜査が、美人局に見える行動の動機という、極めて単純な構造になってしまった。これでは2話分を一気に放映して見せるほどの密度がない。
構造が単純な分だけ捜査描写も少なくなり、美人局を行っている男が隠していたことについて伏線をはる余裕もなく、終盤に無理やり押し込むしかなかった。ほぼ答えが出そろった後に伏線を入れるから、真相があからさまにならないよう伏線の正体を視聴者に見せられないという問題も発生している。
最初に言及した『シゴフミ』初回は、まず前編では隠されている背後関係があること自体を隠し、視聴者が衝撃的な形で謎の存在自体を認識する場面で次回へ引いた。ミステリとしての中心アイデアは小さかったが、それによって生み出される謎を最大限に広げ、後編の真相開示によるカタルシスを増した。この差は大きい。
桜美かつし監督らしい端正なレイアウトで見せる情景も、美しいだけに長々とした独白と合わせて詩的な印象をもたらすだけ。『シゴフミ』では謎がないかのように錯覚させるミスディレクションとなり、退廃した空気を描いて真相の前振りとして効果的だったのだが。


もし構成し直すとしたら、たとえば主人公の眼前に半裸の少女が降ってくるという描写から物語を始めるべきだったろう。そうしたよくあるライトノベルな冒頭の直後、ホテルから少女が降ってきた理由が援助交際と明かされる。
次に出会う周囲の行動や、年齢層の異なる男が二人いた様子から、援助交際らしくないと思わせる。主人公が探偵と邂逅する中盤で、援助交際ではなく美人局だったことが示唆される。パソコンが並ぶ部屋という映像のハッタリだけでなく、謎を解くという基本能力で探偵らしさを印象づけられる。
前後するが、主人公が探偵と会う前に、美人局を行っていた男の伏線も前半ではっきり入れておくこと。このタイミングならばコンビニで何をしていたか画面ではっきり見せても、真相がばれる恐れは少ないだろう。何度も同じことをしていたという情報を、捜査した者の台詞だけでなく、後半にも描写し反復することで映像化することもできる。
そして後半に入って、美人局を行っていた理由を解き明かしていく……といった風に構成するべきだったと思う。現状では謎の解体が小さいので、真相を明らかにする場面も淡々とすまされてしまった。