法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ』

妻を失ったデイヴィッドは、娘のエミリーをつれて田舎へとひっこした。ふたりだけの静かな生活をおくりながら、さまざまな隣人と出会っていく。
しかしエミリーは友人のチャーリー以外を排除しようとする。心理学者のデイヴィッドは、姿を見せないチャーリーは娘の空想だと考えるが……


2004年の米国映画。同年の『宇宙戦争』で注目されたダコタ・ファニングがエミリーを演じる。
ハイド・アンド・シーク -暗闇のかくれんぼ-
序盤にバスタブで妻が自殺した情景を除いては、おだやかな情景がつづきながら少しずつ恐怖をもりあげていく。チャーリーの行動らしき痕跡は次々に見つかるが、ぎりぎり気のせいと思わせる範囲にとどまる。
前半の雰囲気はホラー風味の文芸作品に似た印象すらあり、ひょっとしたら惨劇が起こらないまま終わるのかとも感じて、それはそれで嫌いではなかった。


さて、チャーリーの正体は超自然的なオカルトか、それとも娘が幻覚を見ているサイコサスペンスか、あるいは怪しげな登場人物が演じているスリラーか、なかなかジャンルが判然としないところは『サイン』や『エスター』に近い。

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しかし『サイン』がシリアスな雰囲気とポンコツな真相の落差で良くも悪くも話題になったことや、『エスター』が正体を明かした後も黒幕のキャラクターに魅力があったことと比べて、この作品の真相は弱すぎる。
21世紀のホラー映画としては手垢がついている展開といってもいい。どのような真相であれば観客が最も衝撃を受けるかと、制作者が検討している姿を想像するだけで見当がついてしまう。現代の観客を騙したいなら、もっとミスリードとなる出来事を前倒しで描いてほしかったし、途中で真相を検討させつつ排除しておくような展開も必要だった。
それでも細かく伏線は回収されるし、少ない設定で神出鬼没なチャーリーを成立させていて、謎解きミステリとしては悪くないのだが……おかげでホラーらしい大騒動は終盤まで待たなければならない。その大騒動の情景も、肝心の黒幕のキャラクターに意外性や独自性が足りない。屋敷内外を使いきった「かくれんぼ」は悪くないし、懐中電灯だけを照明にした演出はリアリティがあったのだが……


あと、終盤にエミリーがチャーリーを拒絶する展開そのものに不自然さはないが、ひるがえって前半を見返すとチャーリーへの心酔が異常すぎる感はある。
実はエミリーには絵だけで示唆されている精神的な問題が隠されていて、DVDに収録された別バージョンEDでは明示されているのだが、結果として設定の複雑化をまねいたし、差別や偏見につながりかねない描写という問題も感じた。
エミリー個人は最後までチャーリーを信じようとするドラマでも、ちゃんと映画は成立したはずなのに、そうしなかったことが残念だ。