法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『TVシンポジウム』激論!“勇気と平和” 世界13か国の若者による日本語サミット

世界の平和を実現するため必要なものが何か、各国から招待した若者が日本語を共通語としてパネルディスカッションする「日本語サミット」。その第12回目を紹介するドキュメンタリー番組が、10月16日にNHK教育で放映された。
サミットの司会進行は池上彰


まだ議論するほどには日本語が上達していない若者もいる上、35日間も滞在して意見を戦わせたしめくくりとして開くサミットであるため、わきあいあいとするばかりで異なる意見が争われるような場面が少ない。番組で映っていない場面もあるだろうが、文化の差異が論点としてあがっている場面でも衝突を避けていることから、多くは期待できないだろう。
サミットの最後で平和に必要なものを日本語から選んでもらうという趣向は良かったが、それを受けた池上彰の結論が無邪気すぎる。平和に必要な言葉が日本語によって語られたことを称揚し、「勇気をありがとう」と日本語話者として若者達へ語りかけるなど、八紘一宇*1を合言葉に戦争へ突進した過去への目配りが足りていない。


もちろん、いくつか面白い場面もあった。
たとえば中国代表の男性である曾が少数意見の尊重を訴え、よく聞いてみると香港出身者で、高速鉄道建設に対して農民側に立って抗議デモを行なった体験談からは、中国の広さと多様性を改めて考えさせられた。意見が同じ状態が平和だとしても、だからといって少数派の異論をつぶしてもいいのかという曾の指摘は重い。
イラク代表の男性アリが、多文化共生を考慮する父の意向を受け、スンニ派ながらシーア派に多い名前をつけられた逸話も興味深かった。
中でも、シリア代表の女性マナールがスカーフを身に着けている理由に最も興味を引かれた。同室だったポーランド代表の女性マルタが日本の暑さを理由にスカーフをぬぐようすすめたところ、文化を理由に拒否された。そのマナールが自身でスカーフを着けている理由として語ったのが、男性は女性の外見に惹かれるが、内面を見るべきだという内容。念のため、単純にフェミニズム的な思考と受け取ることはできず、自由恋愛を否定し女性を婚姻対象とだけ見なす文化が背景にあるだろう可能性も考えざるをえなかった。しかして文化を内面化しただけだとしても、マナールのような理由を自ら語った上に自己選択としてスカーフやブルカを身に着けている場合、それを法律で強制的に排除する理路をたてることは難しいだろう、ということを確かに思った。異なる文脈にのせることで、同じ表現が異なる意味を持つことはありうる。

*1:簡単に説明すると、天皇の下で様々な民族が家族として平和に暮らすという大儀を内在していた。