法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

外交問題に地方自治体がかかわるのは政府への越権行為だと訴訟をおこした団体が、外国政府から支援されようとしている不思議

グレンデール市の公園から慰安婦像をなくそうと訴訟していた組織「歴史の真実を求める世界連合会」略称「GAHT」が、SLAPPと認定されて敗訴した。
同時期に、日本政府がGAHTと連携しているということを、菅義偉官房長官が記者会見で明かしていた。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150225/k10015728691000.html

アメリカは多様な民族、文化的バックグラウンドを持った住民が平和と調和のなかで共生する社会になっており、そういうなかで慰安婦を巡るような出身国によって意見の全く異なる案件を持ち込むことは適切でない。原告の関係者を含む在留邦人とは、わが国の総領事館幹部を通じて緊密に連携を取っている」と述べました。

実際、GAHTが訴訟の根拠にしようとしたものの証拠が提示できなかったイジメ問題について、昨年10月に在米領事館が証言を集めようとしていた。
Consulate-General of Japan in Los Angeles

いわゆる歴史問題を背景とした、いやがらせ、暴言等の被害に遭われた方、具体的な被害情報をお持ちの方は下記に御連絡・御相談下さい。
プライバシー、個人情報の保護には適切に配慮の上、当地関係各機関とも連携しつつ、しかるべく対処させて頂きます。

純粋にイジメから守るためであれば、「いわゆる歴史問題を背景とした」と限定する必要はないだろう。
先にイジメ問題にとりくんだ結果として、歴史問題を背景として名指しする順序ならわかるが。


しかし、そもそも日本政府のこうした動きは、GAHTの主張とも矛盾していないだろうか。
たとえば官房長官の記者会見と前後して産経新聞に掲載された、GAHT代表による抗議文を見てみよう。
【歴史戦】「米国に正義はないのか」米慰安婦像撤去訴訟敗訴の原告抗議文(1/5ページ) - 産経ニュース

地方自治体であるグレンデール市が連邦政府が行うべき外交問題に介入するのは、憲法違反であることが主な訴因である。

同じような論理で別地域を訴えた時の敗訴理由として、下記のような説明をしていた。

昨年8月に出た連邦地方裁判所の判決は、意外なものであった。原告には憲法違反であってもそれを修正させる権利はないというものであった。そして、グレンデールのやったことは米国下院が2007年に採択した日本批判の決議121号に適合しているので、問題はないとするものであった。地方自治体が外交問題に介入することに対して、何らの危惧感も示していないのである。

連邦政府どころか日本政府とも異なる意見ではないから事実上として外交介入ではないという判決だ。だいたい地方自治体が政府中央と異なる意見を持つことが必ずしも悪いこととも思えない。
しかし判決に不満をもったGAHT代表は、米国司法に対して下記のような評価をおこなった。他国からの要請をにおわせている陰謀論だ。

裁判官が具体的にどのような圧力やどの国からの要請を受けているかは不明であるが、日本政府がそれに関して関係を持たないことは、明白である。立法や行政から独立しているはずの司法の分野がかなり世俗的な影響力を受けていることを改めて経験した。

ここで不思議なのは、たかだか公園に歴史被害者の象徴をたてることが「外交問題に介入」と批判しながら、自分自身は外国政府から支援されて裁判をおこしていること。同じ国の政府と自治体の関係より、はるかに大きな、より外部からの介入ではないだろうか。
法理論的には地方自治体の活動より、市民団体を介在した介入が弱いという理屈なのかもしれない。しかし、それにしても違和感がある。どのような心理で「外交問題に介入」と批判しているのか、GAHT関係者や支援者や日本政府の考えを知りたいものだ。


なお、GAHT敗訴の経緯は、エミコヤマ氏*1が判決要旨をもとにしてくわしく解説している。
エミコヤマさんによる「グレンデール市に対し慰安婦像撤去を求める州裁判」の解説 - Togetter
SLAPPと裁判で認定されるハードルが意外と高いこと、そのハードルをあっさりくぐりぬけてしまうGAHTのダメさが印象深い。


ちなみに私も、動きはじめた昨年3月にGAHTについてエントリで簡単にまとめた。
グレンデール市に見る、日韓の対立ではなく人権の確立としての従軍慰安婦問題 - 法華狼の日記

「歴史の真実を求める世界連合会」は公式サイトも持っている。在米日本人団体が中核にいる運動のはずなのに、日本語ページしか存在しないところが興味深い。

この問題は、約1年たって英語版トップページこそ用意したらしいが、あいかわらず工事中のまま。
gahtus.org - このウェブサイトは販売用です! -&nbspgahtus リソースおよび情報

只今メンテナンス中により、ご迷惑をおかけします。

公開まで、今しばらくお待ちくださいますようお願いいたします。

しかも団体の英語名と工事中と示す画像を除いて、やはり説明文は全て日本語。
いったい誰に向けた運動なのだろうか。少なくとも米国内での勝訴は本気で目指していない気がするが。

*1:ツイッターアカウントは[twitter:@emigrl]。