法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』迷宮お菓子ランド

アニメオリジナルストーリーの中編。
世界中から菓子が消失する事件が起きている最中、のび太達はしずちゃんがケーキを焼いてくれると聞いて集まった。しかし焼けたケーキは空間に開いた穴へ吸い込まれ、5人はケーキを追ってお菓子の国で冒険を始めることとなる。


とにかく今回は映像が圧巻で、予告映像で推測できた以上の佳作だった。
超空間を浮遊する菓子群を3DCGで描いたアバンタイトルから、劇場作品を思わせるほど力が入っている。3DCG演出は後半のティラノサウルス復活でも活用されていた。
お菓子で構成された風景も、カラフルでありつつ場面ごとの色調が統一されていてうるさくない。さらに、ロングショットを多用して広い空間を演出し、正確なパースの奥行きあるレイアウトで描くことで、映像的なリアリティが獲得できている。
場面ごとの統一は、ストーリー上でも効果的。モチーフとなった菓子の特徴が活かされた冒険がくりひろげられた。それも、たとえば綿飴の雲に喜ぶだけで終わらず粘着力でタケコプターが動かなくなったり*1、実際にそういう存在があればどうなるかを真面目に考えて不真面目な展開に結びつけるところが、SFらしさを感じさせる。ちゃんと不思議な出来事にも法則が存在しているのだ。
場面ごとの統一は、逆にいうと異なる場面の差異を強調することとなる。結果として風景からも登場人物の言動からも、菓子の種類ごとに移動していることが映像としてわかりやすく、長い冒険を続けているかのように感じさせてくれた。リニューアル後の映画では描かれることが少ないロードムービー感覚が、今回の中編では存分に楽しめた。
ただし冒険の楽しさに時間を使ったためか、ラスボスの存在感は薄っぺらく、キャラクターデザインも藤子F作品らしさがなかった。秘密道具で単純ながら伏線を張った逆転劇、物語の冒頭から予告されたオチが藤子Fっぽいので不満は残らなかったが、もう少し真相にもSFらしさがほしかったかな。


コンテは、これまで良作画回でアニメーターとして参加していたそーとめこういちろう監督が担当*2
作画監督は岡野慎吾が担当。あまり話題にのぼらないが、作画の良いアニメに相当の頻度で参加しているアニメーターで、昨年の映画にも原画として参加している。渡辺歩作品やリニューアル後の映画を思わせる柔らかな線で描かれ、全身がマンガチックに伸び縮みし、表情も豊かなキャラクター作画が心地良い。原画には「一郎」「二郎」「吾郎」*3に続いて「史郎」の名前が。なんで数字が戻ってるんだよ。


来年映画紹介企画の「ロボットクイズ1」は今一つ。
さらに、原作のキャラクターをマスコット化したらしい「ピッポ」のキャラクターが、昨年映画の「ハリ坊」と大差ないところがつらい。原作通りに描けば、『ドラえもん』のマスコットとして他に類を見ない珍しいキャラクターが出せるだろうに、なぜわざわざ去年のアニメオリジナルキャラクターに似せるのだろうか。デザインも今のところメカらしさが感じられない。

*1:ここでタケコプターが動かなくなるカットを映さないところが逆にポイント。綿飴雲に喜んだ次のカットでつらそうに道を歩き続ける5人を映し、タケコプターが動かなくなったと台詞で説明することで、視聴者の興味を引きつつ段取り臭さを排している。

*2:ドラえもん』では半パートのみコンテを手がけたことが一度ある。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100716/1279379211

*3:以前に言及したエントリはこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100730/1280589971