法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』ミッチー&ヨシりんとリアルおままごとだゾ/若い二人はこうして家を買ったゾ/「映画ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜」

クレヨンしんちゃん』の通常短編と中編と映画宣伝、そして『ドラえもん』は昨年の映画本編と今年の映画宣伝を合わせた、長時間スペシャル。昨年と全く同じ放映形態だが*1、このまま定着するのだろうか。


「ミッチー&ヨシりんとリアルおままごとだゾ」は、そのまま幼児たちがドロドロを演じる「リアルおままごと」にバカップル夫婦が乱入するエピソード。どちらも作品で何度も登場してきた設定で、これまでアニメ化されてないらしいことが逆に不思議。意外な展開はないが、ネネちゃんという幼児が想像するリアルを、現実の夫婦が破壊していったのは、テーマとして深読みしても面白かったな。
「若い二人はこうして家を買ったゾ」は、前後編くらいの長さで、若い野原一家が家を買おうとして右往左往する。新作の『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜』が引っ越しテーマなので、それに合わせた引っ越しエピソードらしい。これもネネちゃんがウサギのぬいぐるみを買う場面など、レギュラーキャラの少し幼い姿が楽しかった。ただ現在になってみると、ローンで若い夫婦が家屋を購入するのは、たとえわけあり中古でも中流階級より上に感じられるな。


映画『ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜』は、若手演出家の八鍬新之介の初監督作品。残念ながら放映版は細かく描写がカットされていた。
スタッフリニューアル以降は1作目『のび太の恐竜2006』以来の、そしてタイトルに「新」がつく作品では初の、できるだけ原作を尊重したリメイク映画。キャラクターデザインはTVリニューアル後から総作画監督をつづけている丸山宏一がつとめ、TVアニメとの印象の違いも抑えている。


物語で原作を踏襲しているため、全体として映像面のブラッシュアップが印象的。『ドラえもん』の初期映画は作画が弱かったこともあり、リメイクするだけの価値は感じられた。
特に、3DCGを多用した映像は現代ならでは。八鍬コンテはオーソドックスに引いた構図で風景の広がりを表現しているが、それをキャラクターが実感する場面ではカメラワークを大きくつけ、背景を3DCGで立体的に表現する。クライマックスの巨神像に代表されるように、無機物は素材の質感を出しながら動かす。そのふたつの方針を徹底することで、映像の統一感を出していた。
日本の3DCGはサンジゲンやオレンジのように手描きアニメの特色を再現しようとする制作会社が目立つが、『ドラえもん』でCGを担当するIKIF+は素材の質感を出す。最近に手がけている有名作品といえば『アルドノア・ゼロ』のメカニック。その特色をうまく反映した3DCGの活用だった。
作画もリメイクとして文句なし。さすがにアニメ史でトップクラスな『のび太の恐竜2006』ほど破格ではないものの、全体の統一感を優先しつつ、要所のアクションには力を入れた、アニメ映画として標準的なつくり。


もちろん物語に細かなアレンジは入っている。原作は、珍しく冒険そのものが主人公の目的。それをふまえ、アフリカの動植物の描写を増やしたり、水遊びの場面を加えたりして、さらにロードムービー色を濃くしている。これまでのリメイクが移動描写を短縮してきたことと正反対だ*2
他にも戦闘で描写を足して、巨神像内でのび太自身の根性と仲間の共感を強調したり、敵側も古代兵器であることを巨神像への反撃でアピールしたり。最後の別離で、のび太ジャイアンのペコとの関係の違いを描いたり。あくまで原作展開を尊重した延長として、アニメオリジナルの見どころを加えていた。
また、原作より敵キャラクターの個性を立てていた。クンタック王子の暗殺劇でサベール隊長の剣技を先に見せたり、個性的なコンビ兵士を要所に配置。それぞれ小栗旬COWCOWが声を当てており、やや演技が不安定ではあったが許容できた。兵士コンビのブルテリを演じた多田健二は、意外と達者に感じたくらいだ。
声に限らず音響演出も、奇をてらっていないが面白い。原作の無音演出をふまえた再合流は映画的だし、10人の外国人がそろう場面でTV版主題歌がかかるところは冒険から日常の『ドラえもん』に回帰した表現か。
ただ、ほんのわずか不満もないではない。特にバウワンコ王国のディテールに、もっとSF設定を反映してほしかった。ヘビー・スモーカーズ・フォレストなのだから空は常に雲で満ちているべきだし、ただの巨大な水車ではなく間欠泉を利用した羽根車くらいの独自文明があっていい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20140307/1394330932

*2:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20141205/1417826182の感想で書いたように『のび太の恐竜2006』だけは短い尺で冒険の長さを感じさせたが、他作品は単純に移動描写を減らして、アニメオリジナル描写に力を入れがちだった。