ほんの4年ほど前。毎日新聞サイトでコラムを担当していた石田衣良氏が、ネットアンケートと逆の結論を出して批判されたことがあった。
アンケートの題は「中国、韓国と仲良くした方がいい?しなくてもいい?」。当時の批判状況をうかがわせる一資料として、はてなブックマークを示しておこう。
はてなブックマーク - 中国、韓国と仲良くした方がいい?しなくてもいい?―石田衣良の白黒つけます!!:MSN毎日インタラクティブ
いうまでもないが無作為抽出ではないアンケートの数字は絶対視できない。しかもコラムの当該回は他の回と比べて投票数が倍以上に多かったし、女性票を見れば仲良くした方がいいという回答が多かった*1。
もちろん石田氏自身もアンケートと異なる結論を出す理由として、まず自身の経験談から話を始め、アンケートに書かれた賛成派の具体的な文章を引きつつ、対中貿易の重要性などを指摘し、最後に印象的な賛成派の意見を紹介していた*2。
そもそもコラムのタイトルからして「石田衣良の白黒つけます!!」であって、「ネットアンケートで白黒つけます!!」ではない。石田氏の考えが結論に結びつくことは自明だった。
しかし石田氏が用いた「サイレントマジョリティを考慮にいれて」という言い回しばかり注目され、下記のようなサイトまで作られた。
TVアニメ サイレント魔女☆リティ公式サイト
よりによってブルーハーツの替え歌を「スターリンのテーマ」にしていることも意外というか何というか。
また、ささいな部分ではあるが、リティが「社会主義国マジカルソビエト」から来たという設定の意味がよくわからない。歴史的にはニクソン大統領が用いた言葉であるから、米国から来たと設定すべきではないだろうか。石田衣良コラムで取り上げられている国にしても、少なくとも韓国はソ連と敵対している*3。
この「サイレント魔女リティ」は、はてなキーワードにも登録されている。
しかしリティ誕生から2年が経った2008年、田母神俊雄航空幕僚*4が国会に参考人招致された。そこで自分が支持されている証拠としてYAHOO投票を提示した田母神氏はインターネット上でも失笑された。先立ってインターネットに公開されていた論文が歴史の通説に反した陰謀論でしかなく、様々な立場から批判がなされており、擁護する意見に力がなかったという背景はあるだろう。
ネットアンケートが実態を反映していないことは、2009年の衆議院総選挙におけるニコニコ動画アンケートでも証明された。
ニコニコ動画の政党支持率調査が世論から乖離している現実くらい直視しようよ - 法華狼の日記
サイト利用者から無作為多数の回答を集め、地域や世代を考慮した重みづけしても、実際の選挙結果から乖離する結果となった。
さて、ここまで書けば次の話に見当がつく人も少なくないだろう。そう、インターネット上の小沢一郎“人気”だ。
先日の民主党代表選に対する多くのインターネット投票で、小沢氏が菅直人氏を圧倒していた。しかし実際の代表選では、僅差もあったがどの民主党層もおおむね菅氏を支持している結果が出た。そもそも2択しかない投票でどちらか一方が勝っても細やかな民意の反映にはなるまいと思ったが、ともあれ代表選でもインターネット投票がマジョリティを反映せずサイレント化してしまうことが明らかとなった。
民主党代表選に見るマスコミ世論調査とネットアンケートとの極端な乖離 – 島田範正のIT徒然
小沢一郎人気をめぐっては、かつて石田衣良コラムを批判したり、「サイレント魔女リティ」を無邪気に楽しんでいた人も、政治の立ち位置が大きく異なるためか、インターネット投票に「サイレントマジョリティを考慮」すべきことが共通理解されてきているように思える。そのこと自体は喜ばしいが、その態度が果たして過去の忘却に支えられていないといえるかどうか。まあ、数年前の過ちで個人名を名指したくはないので、思い当たるふしがある人それぞれが反省してくれれば幸い。
*1:ほぼ賛否比率が逆の男性票の数が多かったため、全体としては仲良くしなくてもいいという数が多くなったわけだ。
*2:すでにコラム記事は消えているので、コラムへ批判的に全文引用しているエントリを示す。「サイレントマジョリティ」が先に別の回で用いられていたという指摘もある。http://blog.goo.ne.jp/GB3616125/e/800456cf47b5e7d3520e78ca87f2a599
*3:中国も中ソ対立という歴史があるが、スターリン時代のソ連と考えれば大間違いではない。
*4:当時の肩書き。