法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『HEROMAN』第26話 フェイス

サブタイトルの綴りは“FAITH”で、「信頼」の意。タイトルにもなっている「ヒーロー」の意味を、使役型ヒーローならではの観点で読み込む。
北米の学校ではランクが異なるリナが主人公に思いを寄せていた理由と、主人公がヒーローにあこがれる理由を、一つの回想場面で端的に描きながら、現在進行中の危機と重ね合わせる物語構成がいい。
あえて余韻を切るようにラスボスを倒してそのままEDとなり、いかにも北米作品らしい引きでオチるところも、逆に様々な想像をはぐくむ。
父親の背中を追いかける少年という物語を、素直に表現し完結した。


作画監督は富岡隆司、補佐に松田剛吏、長野伸明、山本尚志。原画には冨岡寛、ねこまたや、川元利浩、斉藤恒徳、伊藤秀次といったBONESがらみの面々に、メカアニメーターの重田智や竹内志保、さらに今石洋之の名前まであった。
ジョーイが赤化して特攻する場面が激しい動きでカットも長く、最も印象に残る。3DCGの兵器に重ねられた手描き作画も素晴らしい。きちんと演出が作画を物語に奉仕させ、他の場面では作画の遊びを抑制していたので、アクションの観点では中盤に見所が多い。
キャラクター作画が終始安定していた分、回想場面の幼児体型で描かれた主人公の芝居が面白い。リアルに描かれて恐怖を表現する犬の作画も良かった*1
ヒーローマンデザインのポイントが、日の丸ビームと化すギミックも面白い。ジョーイの腕もそうだが、メインデザインの新たなギミックを見せることで意外性を出しつつ得心させ、ひるがえって過去の映像にも異なる印象を持たせてくれる。


作品全体の感想としては、演出も作画も物語も高く安定していたし、1話ごとに娯楽としての見所がきちんと入っていた。国旗のようなシンボルを隠喩に多用したりしつつも難解ではなく、日照時間や気候を細やかに映像へ反映する古典的にして手堅い演出。いかにもBONESらしく、安定したキャラクター作画とリアルもデフォルメも楽しめるアクション作画。数多いメインキャラクターの特徴をはっきりさせ、混乱することなく一本の筋を通した脚本。
しかし、特筆できるような個性が感じられないことは確かだった。無機と有機が合わさったような白い巨人に主人公が助けられる物語構図は、BONES作品で何度となく見た。キャラクターデザインも癖がない代わりに特異性に欠ける。主人公が中性的だったり、松葉杖をついた少年がメインにいたりしていたが、それだけではアニメファン層に対するフックとして弱かったか。
ラスボスが早々と倒れる物語のテンポが話題になっていたが、アメコミ映画のような三部構成と考えれば遅いくらいだ。初期設定を視聴者に教えるための一部、周知した設定を動かして物語を展開し葛藤を描く二部、広げた設定や伏線をたたんでいく三部……やはり主人公が社会に追われる二部が最も迫真的だったし、世界観を紹介するためだけの一部は展開が遅く感じた。
物語を通して敵が小人物ばかりで、魅力に欠けていたという問題もある。主人公に葛藤を持たせるには、ウィルとの全面対決を用意するくらいの展開があっても良かった。せっかく印象的なキャラクターに育ったのに、物語の表舞台から退いた期間が長かった。
ほぼ毎回アクションを入れるという縛りを守りながら、あまり設定に新鮮味がなく、見た目ほど密度が濃くなかったためか*2、残念ながら視聴率は良くなかった。北米展開を前提にした作品ではあり、子供には馴染みのない舞台だったのかもしれないが、もう少し日本でも人気が出ても良かったと思う。色々な意味で惜しさが残る作品だった。

*1:全くの当てずっぽうだが、川元利浩作画のような気がする。

*2:薄味であることが作品独特の清潔さを生んでいたとは思うので、否定はしないが。