法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

本格的な返事は後日 その2

本格的な返事をする前にやりとりが終わってしまう予感が今からしている。
まとめよう、あつまろう - Togetter

>なお、「名探偵」という言葉を用いているのは、登場人物が超越性をもたされる例として。<貴方の書いた「直感と不法な証拠収集」云々を批判する視点は、単に超越的な存在の一例としての探偵ではなく、まさに探偵小説の探偵についての問題だから、ミステリじゃないもんに持ち込むのは変でしょ。
NaokiTakahashi
2010-06-05 04:12:36

そこは「他の例でたとえるなら、冤罪を批判する名探偵の多くが、作中の警察以上に直感と不法な証拠収集に依存しているような、物語形式と結びついた問題。」*1と書いたように、あくまで物語形式という点に着目したたとえ話にすぎない。薄弱な根拠で視点人物が説得され*2、まともな反論もされず*3に物語が進行する御都合主義といった程度の話にすぎず、当該文章は後期クイーン問題まで掘り下げて語る必要はない。
つまり、最初から娯楽としての「啓蒙」描写の巧拙が主眼であって、後期クイーン問題は一部関連する話題として提示したという順序がある。
ただし論争において前提が共有されていないたとえ話は、むしろ共通理解をさまたげることも多々ある。だから私がたとえ話を続けたこと自体が話をややこしくしたかもしれないとは思う。

>「苦悩する名探偵萌えに過ぎない」という観点でしかとらえられないのであれば、その問題に対するミステリの進化は止まってしまう。<止まればいいじゃん。くだらん思想もどきに過ぎんのだし。そんな進化自体に俺は価値を認めないので。
NaokiTakahashi
2010-06-05 04:09:53

で、後期クイーン問題とか、今真面目に思想的にとりあげてる人ってどんだけいるのか。
NaokiTakahashi
2010-06-05 04:26:40

そこでid:NaokiTakahashi氏の用いている「思想」とは、どういう意味だろうか。作品にとりいれている作家が『コズミック』以降にも存在することならば、重ねて指摘してきた。
以前の返答で「*2:基本的に娯楽なので、問題を問題として認識した上で物語にとりいれたりしている。きわめて古典的な例では、名探偵が真犯人というパターンもそうだろう。」*4と注記した通り。氷川作品や貫井作品の名前も出している。名探偵が登場すれば容疑者の一人と読者が真っ先に考える本格ミステリにおいて、どのように解決編の推理へ説得力を与えるかという問題ととらえれば、「後期クイーン問題」は実制作にも関わる障害の一つだ*5
具体例に書きかえて主張しなおすならば、「苦悩する名探偵萌えに過ぎない」という観点でしかとらえられないのであれば、その問題に応じて書かれた氷川作品や貫井作品の意味が失われる。新本格以降のミステリは二階堂作品の領域にとどまったままだ。

>政治的な正しさに注意を払い、表現に慎重さを期す作者は、無駄なことに努力する愚か者だと思うのだろうか。<作品の美的評価とは無関係なところを頑張ってる人だとは思うね。世渡りに必要だからやっているというのならまあ愚かではないんだろうけど。
NaokiTakahashi
2010-06-05 04:16:10

「美的評価」という主観を持ち出されれば反論しようもないが、私が受け入れることもできない。私は今回「政治的な正しさ」が娯楽性に重なる場合があるという立場で語ってきたので*6、政治的な正しさと作品評価が無関係という立場を前提とされては、会話しようがない。
そもそも「美的評価とは無関係」という主観では、作品への不快感*7を指摘する読者の評価を抑えられるものではないだろう。


前後するが、『DEATH NOTE』についても返事。

>ちなみに、最終巻というか副読本のインタビューで、キラは悪だから最終的にああいう結末を迎えたと、原作者が明言していたはず。<ええ、それ正反対に記憶してるなあ。その辺はぼやかすように描いた、と主張していたように記憶してます。
NaokiTakahashi
2010-06-05 04:18:28

私も正確には記憶発言*8なので、インタビューは探しておく。前回の当該主張は保留ということで了解ねがいたい。

まあ、どっちにしろ作品描写は実際には悪の道化としてキラを描き、にもかかわらず読者の中にキラ信奉者は少なからずいた、というのが事実なわけで。
NaokiTakahashi
2010-06-05 04:18:55

そうそう、主人公たるキラの主張する理想は驚くくらい素直な享受をされていて、後から知って驚いた*9。かなり序盤から「新世界の神になる」という発言などで、主人公の理想が道化でしかない前振りはあったのに。
コードギアス反逆のルルーシュ』でも、主人公たるルルーシュに協力すれば善、批判すれば悪というような単純な反応が多くて、困惑したことを記憶している。主人公のアンチとして設定されたスザクや、核兵器を作って独善的な行動をとったニーナが、終盤まで叩かれていたというのに、最終回になると掌をあっさり返される様子に驚いた*10
ついでに「まおゆう」も、様々なキャラクターの行動に対して、書き込まれたスレッドでの読者は素直に快や不快の感想をキャラクターにぶつけていた*11。良くも悪くも現在に論じられている「まおゆう」とは別物のような印象がある。
いずれにせよ「まおゆう」の受容を語るあたっても、読者の存在もくみとるべきという主張を私は最初から続けているので*12、その点については大きな争いがないと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100524/1274718898

*2:地の文等で、説得される側の内面が描かれていれば、まだしも感情移入できたかと思うのだが。さらに「まおゆう」1スレ目についていえば、173番だけ「データ採り」等の概念を語って知見が突出していたりと「勇者」の持つ知識自体にぶれが見られ、より違和感が大きい。

*3:初期の勇者は台詞が片言で異様に幼く感じる上、心理の動き自体が読みにくい。

*4:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100520/1274413793

*5:あくまでアマチュアの立場ではあるが、インターネット上で犯人当て小説の実作や回答をした体験談として、真相開示を作中描写で示す場合に、それなりの配慮をしなければすぐ批判されることは指摘しておく。あえて他人事のように評するならば、hokusyu氏らよりよほど犯人当ての読者はしちめんどくさい。

*6:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100520/1274413793で西部劇の例でたとえたりした。現代日本の話に直すなら、オタク向け作品でオタクに対する偏見をもって誹謗中傷するような作品があるとして、その政治的な正しくなさが娯楽としての評価と全く関係ないのか、という話にもなる。

*7:あえてこう記述する。ひょっとして、「政治的な正しさ」という言葉自体の文脈に引きずられてはいないだろうか。たとえば前回のレスでは「政治的なエクスキューズの出来など、作品の価値とは無関係だし、規制されるべきかどうかとも無関係だし」とあったが、私は「まおゆう」を規制するべきと主張したことは一度もない。

*8:過去のエントリで言及しているが、具体的に引用していたわけではないので、保留せざるをえない。

*9:ネタバレ回避しながら単行本で追ったので、連載中の様々な読者の感想は後で知った。

*10:主人公に対する関係変化の描写は、主人公を放逐したことで叩かれた扇要と同じくらいには拙速で雑だったと思うのだが。

*11:こちらのブログによるまとめが、当該の感想を編集で意識的に入れていてわかりやすい。http://blog.livedoor.jp/goldennews/

*12:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100518/1274193406