法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太の町にブラックホール/ジャイアンのいい所はどこ?

前半は安藤敏彦コンテ。
ほぼ内容は原作通りだが、スラップスティック性ばかりが前面に出ていて、番組リニューアルする直前を思い出した。ギャグ性を増すなら単純に誇張するだけでなく、なるほどと思える意外性も加えてほしい。
巨大なブラックホールを消すために、命綱を使って決死の覚悟で向かうドラえもんというアニメオリジナル描写は良かったが。


後半はアニメオリジナルかな。こちらは予想外の佳作。
書いたことが現実になり、壊れると効果がなくなる「ソーナルペン」の設定が絶妙。いかにも原作にありそうでいて、完全に重複する秘密道具はない。
物語も、友人をほめる作文を書くため「ジャイアンのいい所」を無理やり作り出す転倒からして面白いし、「いいひと」と化したジャイアンが爆発しそうな雰囲気を詐欺啓発ポスターで暗喩する演出も良い。
そして結末が、ほぼ完璧。不良にからまれたのび太を、ジャイアンは助けようとする……道具を使ったわけでもないのに。しかも道具の使用時に小さな落とし穴があったため、ジャイアンの暴力は道具で封じられているというのに、一歩も引かずに耐えてみせる。その姿を見て、のび太は思わず不良にとびかかっていく。
ここできちんとジャイアンのいいところを示しつつ、同時にのび太の主人公らしい姿を見せる。暴力にあらがった後の2人がボサボサ髪で、少年マンガのキャラクターみたいでかっこいい。
そして、のび太がソーナルペンを壊してジャイアンを自由にし、そのまま夕陽をあびながら感動的に終わるかと見せた瞬間……怒りをつのらせていたジャイアンが爆発。その後、マンガチックに追いかけっこをする2人を見せながら、のび太が作文で書いたとおぼしき「ジャイアンのいい所」を語るモノローグがかぶさる。どちらも多面性あるジャイアンの、真実の姿なのだ。それと対比するように、偽りの「ジャイアンのいい所」をソーナルペンで書いたメモが、打ち捨てられているカットで終わる演出もシャレていた。


くりかえしになるが、本当に今回の後半はいい。
アニメオリジナルながら原作の雰囲気を再現し、それでいて原作と重複する物語ではなく、さらにマンガでは使いにくいアニメならではの演出をしている。原作物のアニメ化としては、ほぼ完璧な完成度だ。