法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』影ぼうしフラッシュ/ドラキュラセット

10月31日放映ということで、ハロウィンを意識した放送になっている。
アニメオリジナルでハロウィン描写を追加している前半もそうだし、西洋のドラキュラをモチーフにした後半もハロウィンを意識した原作選定だろう。


「影ぼうしフラッシュ」は、影踏み鬼で最後に追いつめられたのび太が、逃げ出したことでジャイアンスネ夫につけねらわれる。影を実体化させる秘密道具をつかって反撃に出るが……
後期原作を2005年以降で初アニメ化。鈴木洋介脚本に氏家友和コンテ。先述のように追加要素は多いが、物語の構造はほぼ原作にそっている。
定番なので原作では特に導入の説明などないところ、アニメオリジナルで影踏み遊びの因縁を追加。くっきりした影の作画で通常回と絵作りの違いを印象づける。のび太が壁を背に太陽に向きあうことで影をふまれなくする機転が、原作通りの逆転オチを偶然ではなく機転で達成するアレンジの前振りにもなっている。
単純に時間切れして影が消える原作と違って、手分けしたことで数の優位がたもてなくなってジャイアンに追われる展開で、ぐっと緊迫感があがっている。ハロウィン描写もノイズにならず、影が仮装あつかいされて周囲になじんだり、集めたどら焼きでドラえもんの怒りを解く展開につながって、原作に整合性と意外性を足した良いアレンジだった。
影が長くなる夕刻の背景美術なども、物語にあわせてしっかり描写。半透明に処理されている実体化した影や、それが30分たって薄れていく描写など、撮影も手間をかけていた。


「ドラキュラセット」は、のび太スネ夫の家でホラーを見て、怖がって逃げ帰ってしまう。しずちゃんにまで笑われて傷ついたのび太は、記憶を吸いとって消す秘密道具をつかうが……
2010年にあまり怖くないアニメ化*1をされた短編を、ホラー色を強めてリメイク。コウモリの羽ばたきでモーションブラーをつかったり、前半とコンテも演出も違うのに、やはり撮影の手間がかかっている。
細部まで原作に忠実で、ディテールを足すかたちで尺をうめている。はっきりアニメオリジナルな展開は、答案を笑われた記憶を授業中に消したところくらい。導入のホラー映像からフィルム調に作りこんで、秘密道具で吸血鬼に変身すると出入り口が自動で開くという妖怪らしい設定を追加。のび太が何もかも忘れ、夕暮れの部屋からカメラが引いていき、ドアが閉じてブラックアウトする結末もホラーチックな演出で良い。
途中のスネ夫を驚かしたり、ジャイアンを吸血のため清潔にする描写もディテールアップ。ただ、勝手に洗われたため水びたしになったジャイアンが、寝ている間にすっきりした描写に変えたのは疑問。吸血鬼におそわれて水にぬれる原作の描写は、たしかデュラハンなどの死神系統の精霊が、標的の人間に水をかける逸話が元ネタではないだろうか*2。ここは原作からアレンジするにしても、目ざめたジャイアンが異常な状況に恐怖するような方向にしてほしかった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:いま検索したかぎりでは信頼できる情報がインターネットでは見つからなかったが。