法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』第30話 イシュヴァール殲滅戦

石平信司コンテ。今回はクライマックスで、ちょっと面白いCGの使い方をしていた。エンヴィー戦といい、今アニメは地味に自然で実験的なCG演出が多い。
原画に田中宏紀がいたりして、局所的に目を引く作画は多かった。特に焔の錬金術師の火焔は全体的に素晴らしい。しかし今回の展開では、アクションの爽快感よりも、生々しい演技や表情作画に注力してほしかったところ。


さて、物語本編の話だが……
原作では一巻ほとんどを費やして描写されていたイシュヴァール戦の回想を、放送時間の半分ほどで消化。2クール目以降から語り口が落ち着いてきたと思っていたが、今回は過去にあったことの説明だけ。原作マンガにあった情感が消え失せてしまっている。今回は、たとえば主人公の登場をアバンタイトルとCパートだけにして、ABパートを全て回想に割くくらいの力を入れてほしかった。
作者が戦争体験者に話を聞きに行ったというくらい力が入っていた原作マンガ描写を思うと、いろいろ残念に感じる。特に、戦場でも個々の兵士なりに様々な良心や矜持があるという、ある種の希望であり絶望でもある人間観が、ほとんど描写されていないのが悲しい。虐殺者キンブリーによる偽善批判だけでは、兵士の多様性が描けているとはいえない。一種の軍人定型ではあるものの、少年マンガとしては珍しかったバスク・グランの描写は、せめてアニメ化してほしかったところ。
……いや、少年が主人公のアニメシリーズで、主人公が出てこない回想編に時間を使えないという考えなら、今回のアニメ化も間違いではないのだ。シリーズ構成の大野木寛が今回の脚本ということから考えても、今アニメの方向性が示されたと解釈するべきなのかな。