黒田硫黄*1の連作マンガを原作として、高坂希太郎*2が監督と脚本と作画監督までつとめた中編アニメ。アンダルシアを舞台に開催された自転車レースを描く。
スタジオジブリ作品で作画監督をつとめたアニメーターの初監督作品ということで、そういう雰囲気をただよわせた広報をしていたが*3、実際にはマッドハウス作品。
実際に見ても、あまりスタジオジブリ作品らしさはない。
キャラクター作画も、横顔や群集を見ていると高坂希太郎がキャラクターデザインしたマッドハウス制作TVアニメ『MASTERキートン』を思い出させる。終盤で荒々しい描線のデフォルメ作画が見られたりする良い意味で幅のある作画も、マッドハウス作品らしいと感じる。
あっさりした背景美術も近年のスタジオジブリらしくない。アニメ映像の印象は色設定や背景美術が作画より重要という押井守監督の主張を思い出す。
作品単体で見て、制作しながら物語を作っていく手法を制御できていない近年の宮崎駿作品より、ずっとまとまりも良い。尺のほとんどを自転車レース描写に使い、背景は周囲の人物評や必要最小限の回想で説明する手つきに無駄がない。
最初から最後まで主人公は自転車を走らせ、映像はもちろん技術や駆け引きで楽しませてくれる。珍しいスポーツを題材とした作品としても緊張感を楽しめた。予備知識がないとわかりにくい場面もあるが、作中TVの解説から競走内容の文脈を楽しむために必要なだけの情報はえられる。
自転車レースと並行してドラマも展開され、交差し相反しながら、主人公のありかたを重層的に描いていく。主人公はチームとして戦い家族から応援されながら孤独や敗北をかかえ、周囲のためでなく自分のために戦う姿が嫌味にならない。プロスポーツで競技する者の栄光と孤独をそつなく映した佳作といった感想。