法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

在特会の何が「暴力」かという話で面倒なのは

toled氏の行動や映像で強く可視化されただけで、在特会関係者は必ずしも初めて法に触れたわけではない。
toled氏への暴行でも、本当の意味で前科者が関わっていたし*1、以前のデモでも一般人へ暴力がふるわれたこともあった。同時期にも中国人経営の商店にも押し入っていたし、車椅子の人に対する恫喝もあった。
少なくとも日本では民族や国家に対する名誉毀損は成り立たないわけだが、在特会のデモで叫ばれている言葉や、関係者の発言には特定個人を攻撃するものも見られ、いくつか立件可能ではないかと感じている*2
常野さんに最初に突っかかっていった西村修平という人物 - クッキーと紅茶と(南京事件研究ノート)
実際、上記でbluefox014氏が言及している夏淑琴裁判は、南京事件否定論に対して名誉毀損が認定されている*3
名誉毀損が成り立つほどの誹謗中傷であれば、物理的な暴力ではないにせよ、概念としての暴力よりは強いだろう。社会的に言葉の暴力と見なされてもおかしくない。


なお、上記に列記した事例は、在特会と協力しつつ所属してないらしい者も関わっている。その区別も少しばかり面倒。在特会の代表だった桜井誠氏は、明白な差別や暴力は避けるような指示を、形式だけでも出していたようだ。
一方で西村修平氏は集英社を恫喝し、マンガ『国が燃える』を打ち切らせたりしたこともある。


上記みたいな事例を知っている者にとって、在特会の排外主義が暴力に直結していることは明瞭だ*4。しかしtoled氏に暴力がふるわれた映像で在特会の暴力性を初めて知った人には、在特会の主義が暴力に直結していると主張されても困惑するだけかもしれない。


また、問題視されている在特会の主義や、組織のありようとは、組織的に暴力をふるうような映像が広報になると考えたり、暴力を止めたりするような規範が見受けられないことをふくむ。
つまり、組織の主張内容としての主義と、組織の運営や活動における主義が混じりあって問題を引き起こしたらしいことも、どのように主義が問題視されているかわかりにくくしている。前者の主義は暴力事件の根幹にあるだろうし、もちろん批判対象となりうるが、処罰できるわけではない*5。しかし後者の主義は組織の管理責任などを問う形で、処罰に繋がるかもしれない。


あと、toled氏が歴史的な出来事を例示し、暴力が悪なのではないと主張したことで混乱を招いているのが、少し不思議だ。
日の丸充なう - (元)登校拒否系

フランス国王の支配を覆したのも、大日本帝国を倒したのも、暴力です。暴力はそれ自体が直ちに悪いわけではありません。

ここでの「暴力」は比喩表現のそれと考える必要もなく、物理的暴力と解釈してさえ、さほど奇妙な主張ではない。
革命権とかの概念も一応あって、暴力をふるうことで自然権*6が守られるような場合は暴力をふるうべきという意見と考えれば、ここでの主張はtoled氏にしてはわかりやすい。自然権が最上位にあるという原則として考えるか、暴力が許容されることもある例外*7として考えるかは、視点の違いにすぎず、しかも必ずしも相反しない。
たとえば旗竿でtoled氏が殴られていて、警察の迅速な助けなどが期待できない場合、関係ないねと思って通りすぎる人もいるだろうが、暴力をふるってでも旗竿を奪い取る人もいるだろう。その場合、後者の暴力を批判すべきと考える人は少ないのではないだろうか。
そもそもtoled氏は暴力をふるわれるために立ったのではなくて*8、排外主義へ反対することを表明するため立ったのだから、発端を無視されたくない感情に思いやることも難しくないと思う。


簡単にまとめると、内面に訴えるという形の批判と、表明されている主張内容への批判と、刑事罰に値すると指摘する批判は、それぞれ別個の論点である。それと同時に、相互に傍証として補完しあっているので、違う論点に持ち出すことが誤りとは限らない。
もちろん個々の論者は区別しているのかもしれないが、話がかみあわない原因が多いように思うので、誰かが整理すれば良いのではないかと他人事のように書いておく。在特会主権回復を目指す会が起こした問題行動を集積したまとめが必要な時期に入っているのかもしれない。

*1:そうして立件させれば箔を付けてしまうのではないかという考えからtoled氏の態度を妥当とする意見も見かけた。

*2:法曹専門家のまとまった意見を知りたいところ。

*3:念のため注意しておく。公然と示した情報や主張が正しくても名誉毀損が認定されることはあるが、夏淑琴裁判は違う。もし否定論が正しければ証言へ疑問をていすることには公共的な意義があるとした上で、東中野主張は学問の域に達していないと指摘され、名誉毀損が認定されたのだ。

*4:自明かどうかは別の話題なので省略。あくまでここは感覚的な話。

*5:ヘイトクライムを法律で裁くべきかという論点は、煩雑なので省略。

*6:人権の方が良い表現かもしれない。

*7:toled氏も「それ自体が直ちに悪いわけではありません」と表現している。

*8:「なお、今回は想定外の展開でした」と表現していることを信用すれば、意図的な挑発ではないと考えるのが自然。