法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太の中ののび太

誕生日なので皆に祝ってもらえると期待していたのに、予想外な冷たい目にあったのび太は、整理中で放置されていた秘密道具を使って夢に耽溺する。
のび太を救おうと、皆は異様な夢の世界に入りこむが……


原作短編「うつつまくら」を思い出させる部分があるが、アニメオリジナルストーリー。秘密道具の機能まで似ているが、全て夢かもしれないと思わせる「うつつまくら」の特異な展開を考えれば、アニメ独自の秘密道具を作るのは正しい。
そしてもちろん物語の構造は違う。のび太視点で夢オチの極限まで進んだ「うつつまくら」に対し、この話ではのび太が逃げた夢世界の幻惑ぶりを楽しむ。
のび太は夢でウサギの姿となり、素早く逃げ回る。『不思議の国のアリス』を思わせもするが、時たまカメと揶揄されることへの反発も表現しているのだろう。
のび太ウサギは一言もしゃべらず、後半から視点がドラえもん達に移ることもあって、夢世界は映像だけで表現されているが、なかなか悪くない出来。作画修正は甘いが、コンテが面白いので映像として充分に楽しめる。台詞で説明することなく、夢の幻想ぶりや、のび太の心情を表現してみせた。


あと、一部に来年の映画宣伝も入っているのが、この時期ならでは。
今回は夢世界に映画のデザインが流用されている。しかし、見続けていると来年のものだけではなく、過去の映画で使われたデザインも多々登場してくる。映画ならではの異世界らしさを強く印象づけるデザインでありつつ、のび太の記憶に登場しても不自然ではない。巧い。
他にも、郷愁を喚起させるような名作や、渡辺歩監督が中編映画化した作品からのイメージが登場する。それらを見ている熱心な視聴者ほど、のび太の気持ちがわかるという仕掛けだ。……しかし、映画版の楽しい面白い記憶に逃げ込む主人公という構図は、なかなかに危ないところをついていて興味深い。実際、掲載誌にもよるが*1、『ドラえもん』の短編は大長編よりも主人公を突き放す傾向がある。

*1:藤子・F・不二雄は掲載誌の対象年齢に合わせて内容を変化させている。