法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

10人のコンテマン

アニメーター柳沼和良氏の発言を受けて*1、特にコンテオタというわけではないが、視聴しているアニメに参加したら嬉しい名前を並べてみる。あえて巧すぎない方向で。
対象をしぼるため、下記のエントリを真似て2000年以降の仕事が目立つ10人に限定しつつ、名前の上がっていない人間にしぼらせてもらった。順不同。
コンテマンランキング - まっつねのアニメとか作画とか

むらた雅彦

監督作品はストーリー構成のバランスが悪いものばかりだが、コンテ自体は素晴らしい。作画監督もつとめられるアニメーターであり、コンテを担当した回で原画に名を連ねることも多い。
精緻なレイアウトに加え、作画枚数の振り分けも適切で、動きの面白さも楽しめる。都留稔幸監督や若林厚史監督が抜けていた期間の『NARUTO』で、ひとり気をはいていた。

村田和也

交響詩エウレカセブン』『コードギアス反逆のルルーシュ』『鉄腕バーディーDECODE』のローテ演出が印象的*2。どれも名のあるコンテマンが参加している作品ばかりだが、平均より頭一つ半抜けたコンテを切っている。細田守演出や黒津演出といった著名なコンテマンの仕事は巧すぎてシリーズ全体から浮くことがあるが、村田演出は悪目立ちせず要所を盛り上げる印象がある。それも周囲から頭一つ抜けるような名コンテマンより、さらにほんの少し巧さを感じさせる絶妙さ。
けっこうバンクを使うが、前後との流れが自然で違和感が少ない。

山内重保

美術や撮影もふくめた独特の様式美で貫かれ、極端なアップとロング、動と静のリズムで無理やりテンポを作る。監督作品での連続登板も記憶に新しい。陰鬱に停滞した物語こそ正反対だが、出崎統監督に最も近いところにいる気がしてならない。作画を楽しむ観点からは、アニメーターがそろっていなくても見られるものを作るし、優秀なアニメーターをコネで集めればさらに楽しませてくれる。
演出的な面白味が抑えられていた『BLOOD+』ですら、2度ほど参加して見所を作ってくれたことが印象的。

水野和則

確か、以前はコンテよりも演出処理で知られていた。『BLEACH』でタイアップ曲を違和感なくOP映像に合わせたり*3、作画的な見所のある回を担当している。コンテ回は全て必見。
高低差や敵味方の距離、建造物の位置関係といった舞台配置をわかりやすく示し、こみいった殺陣を楽しませてくれる。撮影効果で主観と客観を別ける演出が印象的。
キャラクターの表情を真正面からクローズアップでとらえることが多いが、背後に映り込む景色が遠い広がりを強調させているので圧迫感がなく、むしろ映画のような重厚感があるのも地味に面白い。

寺本幸代

映画『ドラえもん のび太の新魔界大冒険 七人の魔法使い』で監督に抜擢された演出家*4。映画の正直な感想としては、前年の渡辺歩作品に比べて演出的な力は落ちていた。しかも他のローテ演出家にコンテ協力をあおいでいる。
しかし映画を経験して勢いがついたのか、以降のTV『ドラえもん』担当回では派手で凝った演出を試し、面白い画面を作っている。やや技法を見せすぎる渡辺コンテより、TV作品としてはバランスがいい。

松本理恵

2年ほど前にテレビ朝日系列の日曜朝枠で演出デビューしたばかりの新人。フジテレビ系列枠の新人と比べて映像のこり具合がわかりやすく、面白い演出を行う。同枠の他新人演出家と比べても、今のところ外れが少ない。
ただし良い作画監督と組んだ回が多く、枚数節約にも技量を見せているとはいえ、演出力が底上げされている可能性はある。

荒木哲郎

マッドハウスで活躍する演出家。『BLACK LAGOON』や『DEATH NOTE』の派手な仕事が印象に残っているが、実は細かく語れるほど追っていない。
マッドハウス作品は、良くも悪くも初回に提示した作画から極端に上下へぶれない印象がある。初回が悪ければ一貫して同じくらいに悪く、初回が良ければ高水準をある程度まで保つ。そのため、演出家の細かい違いが目につきやすい印象がある。……ということで、マッドハウス作品で演出家を語ると面白いかもしれないな、という流れから思いついた名前。マッドハウス関連だと出崎統監督の他にも川尻善昭監督とか凄いが、良くも悪くも20世紀から変わらないのと、あまりTVを手がけないので今回は出さない。

石平信司

福田道生と並ぶ、どのアニメでも名前を目にするコンテマン。ちょっと頑張り、普通なら選択しないような面倒な構図を使う。
ただし手がけた作品の多彩さや、見ていて引っかからない“普通”の上手さでは福田演出に一歩譲るかもしれない。

原恵一

映画『クレヨンしんちゃん』シリーズで名を知られるようになったが、TV『ドラえもん』や、その劇場版に対する併映短編*5を手がけていたころの尖り具合も凄かった。
最近作の映画『河童のクゥと夏休み』では全く奇をてらわず上手いコンテを切り、言語化しにくい上手さという点で佐藤順一演出に近づいている感がある。

河森正治

メカデザイナーとして名を知られ、演出は自身が深く関わった作品でばかりだが、それでも特筆したくなる巧さ。監督をつとめた『地球少女アルジュナ』は、テーマの危険性に無自覚という致命的な欠陥を除き、全てにおいて完璧なアニメ。わかりやすくいて陳腐でないレイアウト、違和感なく画面に溶け込ませたCG、よく動くアクション作画の面白味、アニメーターから引き出す細かい芝居、テーマを絵で的確に見せる手つき、等々の映像的な快感と驚きに満ちている。
OVAマクロス・ゼロ』でも3DCGの特性を活かしながら作画の面白さが楽しめ、充実した映像が見られる。


前世紀をふくめれば高山文彦コンテがオールタイムベスト。映画『機動警察パトレイバー WXIII』は今世紀だが、どうやらコンテはほとんど前世紀に終わっていたらしいので上げなかった。一部では押井守コンテの模倣ともいわれたが、自然なカットを積み重ねて一本の作品としてまとめあげていた。OVA超時空世紀オーガス02』での、小林七郎美術監督から賞賛を得たコンテも素晴らしい。
コードギアス反逆のルルーシュ』を作る以前、精力的に様々な作品でコンテを切っていたころの谷口悟郎監督も、派手さと地味さのバランスが取れ、良いコンテマンだったと思う。『爆闘宣言ダイガンダー』に参加した時は一人で演出レベルを向上させた。
今敏監督も上手いが、コンテ段階で決め込んだレイアウトが凄いのであって、コンテ自体の凄さとは少し違う気もする。監督したTVアニメ『妄想代理人』では、コンテ自体は他の演出家が担当した回に比べておとなしかったような。OPコンテは非常に面白かったが。
また、アクション作品の山口晋コンテは絶品と思っているが、監督した映画作品を未見で名前を上げては、逆に失礼な気がしたのでやめた。『アムドライバー』と『機動戦士ガンダムSEEDDESTINY』ではそれぞれ一度しかコンテを切っていないが、どちらも作品中随一のアクションが楽しめる回となっている。
米谷良知コンテは、『ファイナルファンタジー:アンリミテッド』にコンダクターという名義で参加した仕事が目立ったくらいで、2000年以降は目立たない処理屋としての仕事が多くなっている。しかし『黒神TheAnimation』後半でのコンテ連投が、流れ処理作業ながらも、派手なエフェクト作画の見せ場から恐怖心をあおるスプラッター表現まで楽しく、往年の勢いを取り戻しつつあると感じる。
今川泰宏コンテは、緻密さという意味で巧いコンテといいがたいものの、リソースをそそぎこんでアイデアいっぱいの演出をする、オモチャ箱のような映像が楽しい。キャラクターが作中世界で息づいているような芝居を意外と要所で入れており、それがロボットの実在感や声優の濃い演技を支えている。
あと、mattune氏も名前を出している古橋一浩コンテはすごい。『RD潜脳調査室』での老人と青年の肉体を行き来する主人公に代表されるように、作画へ依拠した演出を多用するが、コンテを見ると富野コンテ等とは全く異なる意味でアニメーターを信用していない。監督、それはコンテやなくてラフ原や。

*1:しかし原画マン兼演出家と視聴者とでは最初から見方が違うだろう。

*2:ザ・マーズ・デイブレイク絢爛舞踏祭』では、村田コンテも巧かったが、京田知己コンテが印象的だった。

*3:ただし『BLEACH』は他の演出家が担当したOPEDでも、タイアップ曲をそれなりに主題歌らしく見せており、どれも感動させられる。

*4:TVアニメの監督経験はあった。

*5:当時は、劇場版本編の芝山努監督が無駄なく計算しつくしたコンテを安定して切っていたことに対し、併映短編はどれも若手演出家の冒険心みなぎる見所多い娯楽作品に仕上がっている。その意味で原監督は他の併映短編監督と比べておとなしいとすらいえる。