原作の敵対構造を解体する設定といい、沈鬱な世界観といい、少なくしぼった登場人物といい、素晴らしい作画といい、マッドハウス制作でリメイクした『キャシャーン Sins』を思い出す作り。
最初に情報公開された時は『愛・天地無用!』のような短時間枠アニメになるとばかり思っていたが、どうして立派なスピンアウト作品だった。
夜ノヤッターマン
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思えば『ヤッターマン』は2008年に正統リメイク作品がゴールデン枠で放映されていた。その時からタツノコプロが制作会社として本格的に復活したわけだし、かなり多くの世代にアピールできると考えて力を入れたのかもしれない。
監督は若手の吉原達矢。アニメーター時代から動かす作画を好んでいる。タツノコプロ制作のTVアニメ『SKET DANCE』で本格的に演出をはじめ、TVアニメにおける初監督もタツノコプロ制作の『波打際のむろみさん』。タツノコプロの復活と同調するように良い仕事をしてきたアニメーターなので、今作の起用も不思議ではない。
そして演出家としては、これまでコメディチックな作品での仕事が多く、よく出崎統監督を真似るのは古臭さをギャグに転化しているだけかもしれないと感じていた。しかしシリアスな物語で貧しい生活感を描いた今作を見ると、出崎作品を想像以上に本気でリスペクトしているのか。
第1夜は、先祖の罰で貧しい土地に生きているという三悪人の子孫が、海をへだてた華々しい世界に憧れて、裏切られ、再起するまでを描く。
旅立ちまでの展開が長めで、ヤッターマンが貧しい女性を撃つ衝撃的な描写を除いて、あまり物語に動きはない。しかし日常ととなりあわせの不穏ではなく、貧困な未来を描こうとするTVアニメは貴重だ。映像の力もあいまって興味深く見ることができた。
第2夜は、青函トンネルを抜けて北海道から本州へ向かったところ、ヤッターマンが立ちはだかり、逃れた主人公たちは不思議な出会いをはたす。
前回は過去の出来事だった『ヤッターマン』の要素が、堂々とパロディされる。ヤッターマンの正体は予想したとおりだが、そこからビックリドッキリメカを展開したのは驚かされたし、ビジュアルのインパクトも充分。
そして貧しい一軒家に逃れて、ひとりの女性と出会う結末は寓話のよう。原作のパターンをなぞりつつ、敵の視点から語り直し、最後に敵味方の枠組みに疑問符をつけて次回に引く。狂騒的でいて、かなり起承転結の完成度は高い。
作画面では、まずOPのアクションが山下清悟スタイルのようだと思ったら、クレジットされていない。たしかにイメージを大づかみしようとする山下作画と違って、いったんヤッターマンのデフォルメを固めてから作画しているようだが、となると逆に山下スタイルが評価されて技術的に広まっているということなのだろうか。
また、第1夜クライマックスに主人公を襲う大波も目を引く。『スペース☆ダンディ』といい、近年に大波の作画で素晴らしいものが目につくのは、肯定したいが複雑な気分ではある……