法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

虫プロがアニメーターの劣悪環境を決定づけたという嘘

手塚治虫がTVアニメの制作費をダンピングしたことは事実で、現在のアニメーターが困窮している一因とはいえるが、虫プロのアニメーターは意外と高給をとっていた。当時に虫プロへ通っていた女性アニメーターが良い服装をしていたという証言もある。
漫画家として高収入をえていた手塚治虫が金にあかせてアニメ界を押しつぶしたわけではない。今のように商業アニメが多数作られていたはずもなく、東映動画以外の会社は単独で成り立つ力があったとはいいがたい。虫プロは放送局へアニメを売る時点でこそ赤字だったが、関連商品の版権で黒字にさせていた。作品としてのアニメを至上と考えるなら、アニメを関連商品のCMでしかない代物にしてしまったという批判は成り立つが*1、アニメーター環境は当時にあって悪くなかった。
実は、対する東映動画の労働環境こそ良いものではなかった。アニメを作品として成立させるだけの技術と時間こそあったが、仕事に見合った給料はえられていなかったのだ。これは東映動画の給料体制が、レイアウトからせいぜいラフ原までが原画扱いで、動きを作る一原から線を整理する二原まで動画扱いだったから*2。劣悪な労働環境に抗議するため組合活動が激しかったことも有名だろう。
手塚治虫が趣味的に散財したといえるのは実験アニメ映画くらいで、虫プロ自体はそこそこ資金が回収できていた。虫プロが倒産したのは会社自体の問題というより、似た名前の関連会社を倒産させた時、虫プロも倒産したという風評が広まって資金繰りがいきづまったから、という証言もある。


上記の経緯は資料を探してなくて、あくまで記憶による記述。
本題は、アニメの海外進出が違法配信によってはばまれているという現状について。
アニメ作品の複製および配信の容易性を考えれば、アニメ作品自体ではなく関連商品で利益をえる手塚治虫方式は結果的に正解だったかもしれないと思いついた。現に、映像ソフト平均の安価さと違法配信でアニメ市場が崩壊している北米でも、ゲームを売るための『ポケモン』『遊戯王』シリーズは成功している。
いわゆる「アニメの殿堂」は軽視されがちな資料保管庫として機能すれば存在していいと思うが、アニメの制作環境を向上させたいなら生存権を保障するとか、少子化対策*3するとか、複製配布される危険を前提にビジネスモデルを構築とかすべきではないか……という素人考え。

*1:しかし『ポパイ』がホウレンソウの缶詰CMだったように、このビジネスモデルすら手塚治虫が始めたわけではない。

*2:ちょうど読んでいる久美薫『宮崎駿の時代』48頁に同様の記述がある。しかしこの書籍は著者独自の視点に大きな疑問があり、細部の資料性も瑕疵が見られるため、信用するには少し弱い。

*3:これ自体が効果薄い政策ばかりになりそうだが。