法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『女王国の城』有栖川有栖著

推理作家の藤岡真氏が『インシテミル』を批判していた際に、比較として持ち出していたので読み合わせてみた。
まず小説として読むと、いかにも推理小説らしく予言や陰謀論にふりまわされた人々の混迷と克服という合理性を強く謳っている。それだけに、超自然現象を用いない範囲で予言が成就し、宗教の偉大さも損なわれない結末が、良い意味で心に引っかかった。


そして確かに、クローズドサークルが作られた理由をきちんと本格推理小説として提示してある。新興宗教の街を舞台とした必然性があると同時に、新興宗教の一側面を強調することで真相を気づきにくくするミスディレクションも巧みだ。集団の意思で拘束されるというクローズドサークルなので、脱出劇でたっぷりとサスペンスも楽しめる。
クローズドサークル作成経緯とは別個に、殺人事件の犯人から動機まで推理できることも良かった。きちんと全ての手がかりが提示されているのだ。頁数が多いわりに単純な推理だが、難しすぎず易すぎず、ばらまかれた手がかりを拾い組み上げる楽しみは充分にあった。


しかし個々の事件は不可能性が薄く、派手さもない。特に、「城」へ入るまで興味を引くべき過去の密室事件が、作中で指摘されるくらいにつまらない。「城」へ入るまでは半分の頁数に抑えても良かったと思う。
あと、「聖洞」と事件の関係は予想しやすく、解決編直前で情報提示されるのは遅すぎると思った。これも、作中人物が、気づけなかった自分を批判しているくらいだ。