『WEBアニメスタイル』の首藤剛志コラムに、興味深い外国体験談がある。首藤氏が若いころ欧州を放浪していた時の出来事だ。
WEBアニメスタイル_COLUMN
北海道にいた頃、犬を飼っていた。中型犬だが気の荒い犬で、北海道に住むアイヌの人達がクマ狩りに使う犬だった。
アイヌ犬と呼ばれていた犬の種類だ。優秀なアイヌ犬は天然記念物に指定されるほど格好のいい犬だった。ところが、いつの間にかアイヌ犬という呼び名がなくなっていた、北海道犬と呼ぶのだそうである。アイヌという人たちの呼び名が差別用語だというのだ。
何を基準に、アイヌ民族(民族と言っても、いろいろな部族がいて、生活様式も違う)のアイヌという呼び名が差別用語になったのかはしらない。
しかし、天然記念物までいるアイヌ犬が、なぜ北海道犬とよばれなくてはならないのか?
子供心ながら納得がいかなかった。
もっとも、『ポケモン』に差別の話を忍びこまそうとしたのは、それが理由ではない。
20代の前半、ドイツの田舎町に1ヶ月ほどいたことがある。
その町の人は、あまりに田舎すぎて、日本人を見たことがなかった。
おそらく、彼らが知る、初めての日本人が僕だったかもしれない。
そんな町になぜ僕がいたのか、話が長くなるので省略するが、その町の若い人たちは大きな街に出稼ぎに行って、町に住んでいるのは年配のドイツ人が多かった。
今から30年以上昔のドイツ(当時は東西ドイツに分かれていた)である。
大都市ならともかく、日本人を観たこともないドイツ人にとって、日本人はただの東洋人ではなかった。
冗談ではなく、年配の方達にとって日本人は、第2次大戦をともに戦った仲間だった。
しかも、ドイツが敗戦してからもがんばり、原爆を落とされるまで(彼らは原爆を知っていた)負けなかった戦友の息子だと思ってくれたようだ。
この日記で紹介した時点で、勘のいい人は次に何が起きたか予想できるだろう。私に語る言葉はない。
ただ、あえてつけくわえるなら、異邦者へ差別を行わない者が全ての差別を超克したとは限らないこと、この体験談は日本においても立場を変えて存在するだろうこと、それらは頭の片隅に置いておいてほしい。
個人的な感想だが、主題が直截的に表現されていた映画『ポケットモンスター』初期シリーズが、外国語に翻訳されることを脚本段階で想定したことがわかり、悪い印象が薄れた。
子供の観客を馬鹿にしたのではなく、信頼したからこそ堂々と主題を提示したということなのだろう。主題を台詞にする作品は好きではないのだが、首藤氏の考えも見識ではあると思う。