法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『銃とチョコレート』乙一著

講談社の児童向けレーベル、ミステリーランドの第十回配本。
ミステリーランドは、子供向けを意識しすぎるためか単純すぎるプロットや薄いドラマに終始することが多いが、この作品ならばミステリ好きな大人でも楽しめるだろう。
もともとジュブナイル的な小説を書いている乙一だからだろうか、変に気負ったり手を抜いたりしている様子がない。


物語は、聖書に隠された地図を見つけた少年が、様々な協力と障害の中で、怪盗の宝と真実を追い求めていく内容。
怪盗と探偵、社会と戦争、移民と差別、英雄の現実といった普遍的な主題を手際よくさばき、適度な密度でまとまっている。
乙一らしく細かい伏線の使いかたも巧み。たとえば怪盗の正体は薄々感じられるところだが、主人公が信頼していた人物の正体と合わさることで、エピローグの告白に繋がる構成は素直にうなる。ミステリとしては珍しくない犯罪だが、細かい伏線や動機が自然に小説へ溶け込んでいて、さらに真相を重ねて隠していることで、真相に気づきにくくなっていた。


街を舞台とした名探偵との出会いと別れを描く前半、ロードムービー風に宝探しに行きながら自己探求を続ける後半。そうして語り口が変化することで密度が濃くなり、飽きがこない。
登場人物の多くに裏がありすぎて、読者によっては後味の悪さを強く感じるかもしれないが、展開にそって少年が人間の多面性を知っていく姿は正しい児童向け小説と感じた。