法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『The Book』乙一著

少年マンガジョジョの奇妙な冒険』第四部の外伝的作品として、公式に出版された小説。完成まで5年間かかったというだけあって、この種の小説としては分厚い内容になっている。


ゲーム的に危機を切り抜ける展開から、陰惨ながら一種清々しい結末まで、小説として見て乙一作品そのもの。冒頭の乙一らしい仕掛けも小説ならではで、これだけでもマンガからスピンアウトした価値がある。
そうした乙一作品の雰囲気が原作と合致しているだけでなく*1、原作の主題*2をくみとりつつ、きちんと作者の作風も出ており、一種の二次創作としてよくできている。
原作で謎のまま残された伏線である雪の日の記憶について、解釈を加えつつも断言しない節度は、たまに二次創作を書く者として見習いたい。断言しないまま解釈を小説の展開に組み込んでみせる技巧も見事。


あえて文句をつけるなら、原作キャラクターの背景がほとんど描写されないこと。そして、語り手や漫画家が物語から途中退場し、主人公仗助が最後を持っていってしまうこと*3
原作キャラクターをまんべんなく活躍させようとして書ききれなくなる、いかにも二次創作によく見られる欠点と感じた。乙一の才と能をもっても、同じ轍をふんでしまったようだ。

*1:後書きで語られているように、乙一作品は『ジョジョの奇妙な冒険』からの影響が強いので、当然ではある。

*2:ジョジョの奇妙な冒険』でいえば、血縁関係によってつむがれる運命、といったところか。実際、原作者の荒木飛呂彦氏はインタビュー等で、血縁の神秘性について再三語っている。

*3:群像劇の域を超えて、登場人物の物語における立ち位置、重要度が変化してしまうのは原作『ジョジョの奇妙な冒険』第四部も持っていた欠点だが。