法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ETV特集』熊井啓・戦後日本の闇に挑む

〜深酒はいけないですよ監督〜
今年に亡くなられた社会派映画の巨匠、熊井啓監督の軌跡を追う。
作品は『海と毒薬』*1を十年くらい前に見ただけだが、それでも興味深く楽しめる番組だった。純粋な映画メイキング番組として面白く、さらに個々の作品を通して映像作家の進化や問題意識のありかたを掘り下げていく。


作品の題材選択が好みなだけに*2、粗筋と映像のダイジェストだけでも映画の魅力が伝わってきた。逆に、撮影所出身ゆえの古く重い演出が不評だったことが番組でも指摘されていたように、ダイジェストでないと見ていてダレたかもしれない。
しかし遺作となった『日本の黒い夏・冤罪』*3で主人公の乗せられた警察車輌を、金魚の糞みたいに報道車輌が追うカットには、喜劇的な面白味も感じられた*4。機会があれば見たいとは思っていたが、何とか機会を捻出して見る気になってきた。


次作として予定されていた『破獄』も逆説的な内容だったらしい。戦前の強盗殺人で服役しながら脱走を何度もくわだてる囚人を主人公に、終戦を境に刑務所へ民主的な息吹が入る様子を描く予定だったという。主演としては渡辺謙*5に出演依頼が行き、快諾されていた。監督が亡くなったのは快諾の二日後だった。
題材そのものが面白そうで、主演俳優で一般の注目も集められただろうに、残念な話と思う。

*1:アメリカ兵捕虜を戦時中の日本で生体実験した事件を題材にした、遠藤周作同名小説の映画化。細部は忘れていたものの、淡々とした解剖シーンは強く記憶に残っていた。

*2:長崎被爆者と被差別部落が軋轢を起こし、互いに差別発言を応酬するなど、何という逆説だろう。

*3:松本サリン事件を題材とした映画。

*4:報道に対する逆撮影は、当のオウム真理教が行っていたことでもある。宅八郎ら一部を除いて異常視されていたオウム真理教の逆撮影だが、当時から報道被害や捏造について興味があったので、その行動の意味だけは理解できた。

*5:『海と毒薬』で出演した縁。