法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『DEATH NOTE〜ディレクターズカット完全決着版〜リライト幻視する神』

深夜で放映された連続TVアニメの総集編。
Lと月の対決が決着するまでの、原作で最も評価が高い物語にしぼって編集。3時間という長さから考えれば、わりあい上手な圧縮ぶりだった。ポテチのように珍奇な演出も、短時間で迫力を生んでいる。
宣伝では死神視点と称していたが、実際には物語が死神界で始まり終わるだけで、死神が知らないような状況も描写されている。


個人的には、死神視点よりも原作通りに松井視点の後日談で回想総集編としてほしかったところ。
他人が死ぬ痛みや苦しみは、死ぬ瞬間の残虐さよりも、死後の喪失感で強くおぼえるものだろう。特に、現実ではない虚構、それも身体性の薄いアニメ*1であっては。
強烈な印象を持つ人物が消えた後、連載の長期化で中だるみして「面白いこと」が少なくなったたことが、逆に原作マンガでは独特の効果をあげていた。強烈な人物達が消えた喪失感を語る展開を最後に用意したところから見て、ある程度は作者の意図もあったと感じる。
松井視点で編集すれば、捜査側の把握していた状況に描写をしぼり、原作最後までたどりつけたとも思えるのだが……そこまでする人気はないか。
今回の総集編も最後に少しばかりの喪失感が描かれたものの、全体的には原作で「面白いこと」が多かった時期の対決にしぼった構成であって、主題を別にしても余韻が残らなかったのが残念*2


さて、総集編では登場しない後半の探偵役に比べ、まだ合法的な範囲で動こうとしていたLだが、さらに今回は過激な言動が相当に編集削除され*3、相対的に普通の名探偵に近い印象となっている。何より、警察との軋轢が全くといっていいほど描かれていないため*4、Lは法治の体現者にすら見える。
おかげで、対するキラの私的制裁も、かつて無政府主義の一部に見られた暴力的な革命思想に似た感じも受けた。
こうなると逆にテロリズムという呼称がキラに対して使われなかったり、犯罪者を裁くばかりで直接的に社会を動かそうとしない*5不自然さも強く感じる。
キラの行動を肯定する人間がテロリストや左翼を嫌っているところをネットで何度も見たが、死刑や私刑の肯定以外にも別の境界線があるのかもしれない*6


映像的にはLが死亡する前後の回想イメージが印象に残った。原作とはまた違ったアニメ独自のリアリティある作画が、良い意味で違和感を持たせて印象的。

*1:TVアニメとしては相当に、下手なドラマより強いリアリティがあると思うが、セルアニメ独特の質感を補うほどではない。

*2:新作映画の番組宣伝という事情もあったのだろう。

*3:もちろん死刑囚を実験台にするところは書かれていたが。

*4:日本警察と別個に捜査を始めている点が巧妙に削除されている。キラ以外の人間を試す場面も、名前を不用意に明かさないよう注意する場面くらいしか残っていない。

*5:ノートのルールを考えれば、制裁対象の政治家や有力者を使って様々なことができるはず。

*6:異なる思想や世代間で、左翼という集合の認識が共有されていないというだけの話といえばそれまでだが。