法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season21』第13話 椿二輪

一年前に没した牧村遼太郎という画家の展覧会に杉下と亀山がおとずれる。牧村は自らの胸を刺し、愛人は毒の花を煎じた茶を飲み、心中をはかったという。その時、愛人と画家自身の隠喩とされる椿二輪という絵画が、謎の男に切り裂かれた。亀山が男を追いかける一方、杉下は人質にされかけた客を気づかう。そして展覧会の主催者は、牧村の愛人とされる女性芸術家と連絡をとっていた……

 
岩下悠子脚本。美術品が棄損されるさまざまな事件を思わせつつ、ある意味で芸術に殉じた人々の愚かさと、芸術の力を純粋に感じた愚かな人のコントラストを描いていった。
かなり複雑なトリックだが、あまり意外性は感じなかった。まず心中の手法が大きく異なっていた時点で、後づけ心中という可能性は想定できていた。自作自演で話題性を獲得するという真相も珍しくない。
しかし夫をささえつづけた妻がすべてを計画していたという真相は、少なくない芸術家が家族にプロデュースされて名をあげたことを思い出させる。愛人と浮名を流した「情熱の画家」という評価すら作られたものだとは、そして女性芸術家が愛人ですらなかったとは予想できなかった。こうなると死後に高評価された牧村遼太郎の存在そのものが妻の作品とも思えてくる。


しかし、心中が実際は単独自殺だったという真相を、たまたま自殺した夜に入った窃盗犯の証言で明らかにしたところは、偶然がすぎると思った。
展覧会で人質になった男も物語の中心人物だったという展開はいいし、異なる事件が複合して複雑化するプロットは好みだが、いくらなんでも同日の出来事にしたいなら何らかの背景を足してほしい。
たとえば自殺してすぐ発見してもらうため警備システムを切って門を開けていたから、窃盗犯がやすやすと入りこんでしまったとか、偶然にそれなりの説明をつけることはできるはず。
芸術家をまつりあげようとした周囲の人々と違って、実利を求めていた窃盗犯が芸術そのものの価値を感じたという構図そのものは良い皮肉なのだが……

『レストレポ前哨基地』Part.1/Part.2

 2007年から2008年にかけてアフガニスタンの山中につくられた米軍基地の日々を撮影した、2010年と2014年のドキュメンタリ。

 ナショナルジオグラフィックで『レストレポ ~アフガニスタンで戦う兵士たちの記録~』として放映されたドキュメンタリに、監督の死後に残された素材で続編がつくられ、あわせて劇場公開された。
www.uplink.co.jp
 まず、Part.1の冒頭は撮影の手振れがはげしく、おそらく素人のスマホ撮影素材も多用されているため、画面酔いしそうになる。クローズアップが多くて状況の全体像もわかりづらい。しかし山中を装甲車で移動する場面でいきなり戦闘がはじまり、ドキュメンタリとしての迫真性が一気に増していく。
 約1年間を約1時間半に凝縮していることを考慮しても、待機が長い同種の戦場ドキュメンタリと比べて戦闘シーンが多く、緊張感に満ちている。最前線をカメラが突入するのではなく、手作り感があふれるもののしっかりした基地に隠れているだけで、周囲から散発的に攻撃される。周囲の山が緑深い森林ではなく、灌木がまだらに生える乾いた地域だからこそ、敵の姿が見えないことがもどかしい。
 うまい黒人調理係がかわいがられたり、心地よさと不快感が同時にただよう軍隊らしいホモソーシャルな空気が流れていく。戦死者を出しながらも少しずつ兵士は緊張感を失っていき、上腕まで露出して、素足で靴をはいた状態で戦闘に参加する。その靴のなかへ機関銃から排出された薬莢が入りこんだり、危なっかしい。
 もちろん予想されたように米軍と現地の距離が遠くへだたっていることも描かれていく。息子がどこにいるのかと問う老人に対して、斬首ビデオの加害者側に映っていると米軍は説明する。簡単に言葉が通じない状況であることが痛感される。
 しかし説得のため映像資料を見せたりする努力は描かれない。後に交渉のために来た上官は上から目線で長老に接する。そもそも基地の名前は最初の戦死者からつけられた。あくまで先進国が目的にそって土地を占有した場所なのだ。
 山頂の基地にこもるしかない兵士たちは現地に根づくことも長老の背後に隠された社会に接近することもできず、約一年の基地生活を終えることを単純に喜んで去っていく。諸外国の支援が破綻したことも当然と思える。


 一方、Part.2はスローモーション処理などもつかって一般的なドキュメンタリの印象に近い。基地内の視点を主軸にして観客に状況を実感させた1作目と違い、タリバン側の映像資料もはさみこんで、さらに兵士間の不和や現地への不信感も描いている。医療支援などで貢献しているのに受けいれられない不満が語られるが、敵がねらってくる場所で姿をさらさせる上官へ不満をもつ兵士もいる。
 こういう前線の部隊は白人男性ばかりで、自分たちは疎外されていると周囲から離れた土地で黒人兵士のひとりが語りつづける。前作の黒人料理番に対するかわいがりを超えたような、黒人相手にかぎらない兵士同士のいじりが何度もくりかえされたりもする。
 映画は最終的に別の場所へ移った兵士たちのインタビューをかさね、帰りたい心地よい場所としてレストレポを位置づける。しかし先述のように疎外感を吐露する黒人兵士もいたし、山頂に孤立した基地は現地社会に根づくことはなかった。
 今回の映画は放棄されたレストレポが爆破される場面ではじまる。土嚢とベニヤ板でつくられたホモソーシャルとマチズモの城は、もはやどこにもない。

GYAO!が2023年3月31日に全サービスを終了するとの報道

買収前から古い作品の視聴に活用していて、映画でもアニメでも掘り出し物を視聴するために利用していたので、かなり残念なニュースだ。
gyao.yahoo.co.jp
アニメはTVerやABEMAが代替できるが、いくつか独占配信しているバラエティ番組は番組改編期より前に配信終了という事態になるらしい。
www.itmedia.co.jp
さすがに他の有料サブスクリプションと比べて古い作品が多いが、かわりにカルト作品的なB級ホラーはよく配信され、韓国映画は新作も充実しているので、配信終了前に視聴する作品の選定に困るくらいだった。


今視聴できる作品では、たとえば『哭声/コクソン』がキリスト教をモチーフに他者を信じることを試されるホラーとして完成度が高い。
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韓国映画らしいアクションのスタイリッシュさとシュールな笑いが楽しめる『ハイヒールの男』は、トランスセクシャルの直面するルッキズム問題や、それが実はシスジェンダーと共有すべき課題と示す物語もよくできていた。
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現実の児童虐待事件をモチーフにして韓国社会を動かした『トガニ 幼き瞳の告発』も忘れがたい*1
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まだ視聴できていないが、『神と共に』二部作のような最近の大作もさっそく無料配信されている。
gyao.yahoo.co.jp
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『デリシャスパーティ♡プリキュア』第43話 レシピボン発動!おいしーなタウンの危機

なんとかブンドル団の本拠地を脱出できたキュアプレシャスたちだが、その代償としてコメコメが力つきてしまう。そしてフェンネルはその正体をクッキングダムにも明かして、全世界から料理の存在をうばう。力を残している他のプリキュアが戦いに向かうなか、残った和実ゆいは……


平林佐和子シリーズ構成の脚本による、最終決戦への準備回。あえてパワー最強でプリキュアの中心にいるキュアプレシャスを初めて戦いに参加させず、他の戦えるメンバーによる総力戦を描くことでアクションに新鮮味が出ていた。特に屋内で飛行するアクションのカメラワークとレイアウトが目を引いた。
もちろんキュアプレシャスが戦いに向かう結末になるが、そこでひさびさの単独変身バンクを見せたり、パンチ技バンクの描写とともに突撃して終わったり、戦闘そのものには参加せず映像リソースも省力しつつ、きちんと活躍を印象づける小技がきいている。


これまでのレシピッピ回収とは違って、料理の概念だけ残しつつ存在をうばうことで全世界を脅迫するフェンネルの小者ぶりも、後1話で実質的な物語を終えるにはちょうどいいスケール感だろう。
特に改心の要素もなくプリキュア側にくだった敵幹部セクレトルーを、「神の舌」たる芙羽母を崇拝しているキャラクターにすることで、時間を消費せず対話できるよう位置づけたところもテクニックとしては巧み。味方側を尊敬させることで何となく許せる雰囲気が生まれているし、キャリアウーマンという立場で共感できるのだろうという説得力もある。

『ドラえもん』巨大ロボットで雪あそび!?/夜空に輝くピザ・ギョーザ

「巨大ロボットで雪あそび!?」は、大雪がふったので裏山にあつまったのび太ジャイアンスネ夫は、ドラえもんに雪遊びを助ける秘密道具を出してもらう。しかし試用の電池がすぐ切れてしまい……
 伊藤公志脚本、氏家友和コンテ演出のアニメオリジナルストーリー。巨大ロボットが登場するためか鈴木勤がキャラ設定に参加。
 とっちらかった内容になるかと思いきや、レジャーのためロボットを動かすため協力するドラマが主軸となって、予想とは違うがストーリーに意外とまとまりがある。
 ふたつのロボットのデザインも悪くないし、それがろくに動かず子供たちをふりまわす展開もこの作品らしさがあっていい。ロボットはアイテムではなくマクガフィンだったわけだ。
 子供たちの行動を見て、どう考えてもエネルギーに短期的な金銭をつかわないことと節約は違うかとも思ったが、節約したエネルギーを電池に変換しているというより褒美の一種と解釈すれば問題はない。厳寒の庭を冷蔵庫あつかいする不条理な行動で電池が出る不条理さから、他人の家で生活して「節約」する展開にいたって、少しずつエネルギーではなく生活費の節約で電池が出てくるのだと納得させられていった。


「夜空に輝くピザ・ギョーザ」は2015年の再放送。CM入り時のドラえもんの台詞からすると、来年の映画にあわせて空を見るエピソードを選んだということらしい。
『ドラえもん』ジャイアンの歌がやめられない/夜空に輝くピザ・ギョーザ - 法華狼の日記