法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』アクセル全開 まさかの乗り物大連発

最初のミニ映像コーナーでは、乗り物にまつわる社会の動きも紹介。インドで村々にバイク出張し、ひらけた屋外で生徒同士の距離をはなしながら授業をする教師など、新型コロナ禍らしい光景が印象深い。


しかし空港の人間模様を紹介するコーナーになると、首をかしげるところが多かった。ヒースロー空港の拡張反対デモについて、ダイインを一般的な抗議表現と知らないようなナレーションをつけていたり。
ロサンゼルス国際空港で黒人の映画製作者サム・マコンが怪傑ゾロのコスプレをしていたら通報された事件もそうだ。かけつけた多数の警官に銃を向けられ拘束されたあげく、発砲事件が発生したというデマにつながって新たな通報がおこなわれ、空港全体がパニックになった。ここでBLM運動にまったく言及しないことが違和感あってしかたなかった*1
車椅子の男が米国でスペイン語話者を差別して反発されたら被害者ぶったり、コロンビアの航空会社が超過料金を乗客から過剰にもとめつづけたり、世相の断片として興味深い情報の紹介は多かったのだが、だからこそ関連する情報を反映したナレーションをつけてほしかった。


カナダのノバスコシア州からは、有名な観賞用巨大カボチャを使った競技を紹介。内部をくりぬいてボートにして、湖の対岸まで渡る速さを競う。
バカバカしい争いのようでいて、ボート用に流線型のカボチャを作ったり、老いて引退した絶対王者のカボチャ使いが復帰して他の競技者と違って小さいカボチャを選んだり、競技のノウハウや人間模様がけっこう楽しい。
そんななかで優勝したのがそこまで紹介されていなかった地元の校長という「誰じゃ?!」なオチも、フィクションでは味わえないドキュメンタリーならではの面白さだった。


最後はエアフィッシュなる東南アジアで新開発された空飛ぶ船が登場。小さな翼だが水面効果で少し浮いて海上を進む姿は心おどるが、同じような発明が昔から何度も紹介されては広まることなく消えていったことを思い出し、少し微妙な気分にもなった。
しかし今回に興味をもったクライアントは、空港からホテルへの60kmある渋滞を回避したいオーナーだったり、マラッカ海峡の石油流出に対処する化学薬品の散布用だったり、ヘリコプターやボートでは使い勝手が悪いものばかり。
なるほど、島嶼部の多い東南アジアからオセアニアまでは、ヘリコプターより安くて船より速いニッチな存在として活躍できるかも、と見ていて思いなおした。

*1:2016年の事件なので、今年のもりあがりには直接の関連はないが。 www.rafu.com

『ドラえもん』スパイ衛星でさぐれ/ややこしい?うちでの小づち

前後ともに嶋津郁男がキャラ設定と作画監督を兼任。ここ最近の分業体制からは意外なスタッフ構成。作画は安定していて、むしろ通常の嶋津回より良いくらいで文句ない。


「スパイ衛星でさぐれ」は、何かの気配を感じているスネ夫がイタズラする場面ではじまる。秘密道具で調べていたのび太が叱責するが、やがて全てを監視するようになり……
スネ夫の隠れた悪事をあばくパターンの一エピソードを、2005年以降に初アニメ化。佐野隆史コンテ。
上述のように作画は安定して良いが、スパイ衛星の視点がすぐ固定カメラになるコンテが残念。人体の周囲を動かしつづける作画はリソースも技術も大変なことはわかるが、背景とキャラを密着マルチ処理で疑似敵に回りこみしたり、衛星写真をつかって静止画で回転を表現したり、工夫しようはあると素人なりに思うのだが……
また、アニメオリジナルでドラえもんの恋人猫を救う展開を足したのはいいが、そこで認めて仲間になる展開となったのは感心できない。のび太のオチの孤独感が弱まったし、ドラえもんが事情を知っていると結末の後で弁護した可能性が生まれてしまう。ひとりでジャイアンの横暴を止めたことへの救いをスタッフが用意してあげたかったのかもしれないが、他人の生活を盗撮していた代償として結末の孤立は必要なはず。
アニメとしてアレンジを入れるなら、いっそ映画『ダークナイト』のパロディ的な描写にすればどうだったろうか。十年以上前の作品だが、人気シリーズでもあるし、幼い子供でも見ている視聴者は多いはず。
そもそも原作からして、スパイ衛星をつかった監視から、のび太ドラえもんに語った建前を実行することになる。偽物のヒーローが本物になるパターンの物語といえなくもない。


「ややこしい?うちでの小づち」は、一寸法師のように背をのばしたいスネ夫が、ドラえもんにたのみにいく。しかしドラえもん一寸法師モチーフの秘密道具は難点があった……
三宅綱太郎コンテ演出で、2005年以降初のアニメ化。序盤のスネ夫がコミカルにデフォルメされた芝居作画で目を引いた。一寸法師スネ夫が夢に見るギャグも楽しい。
物語は原作にほぼ忠実。わらしべ長者のようにまわりくどく、かつ代償を多く必要として得した気持ちになれない秘密道具の面白味を、最小限のアレンジでうまく映像化していた。
特にジャイアンがサッカーボールをとりもどすため秘密道具をつかうアニメオリジナル展開で、いったん神成さんが怒って持ってくるストレートな展開に感心した。それだけなら肩透かしでつまらないが、ジャイアンはボールに書いてある本名「ゴウダタケシ」が自分ではないと嘘をつき、周囲に責任を押しつけようとする。そこに学校の先生が通りがかり、ジャイアンを本名で呼ぶという二段オチ。嘘をついた罪が重なることに加え、叱る人間も二倍になり、封印したくなる秘密道具のつかいづらさを原作以上にきわだたせた。
ただ、巨大なタンコブでスネ夫の身長がのび太をこえる原作通りのオチは、漫画よりリアリティがあるアニメでやると説得力が落ちるかな、という惜しさはあった。下手にアレンジするよりは正解だとは思うのだが。

名誉棄損裁判で植村隆氏の敗訴が確定したが、勝訴した櫻井よしこ氏こそが誤りを認めて謝ったことは知られてほしい

敗訴したことは残念だが、一審二審における裁判所の動きから予想はしていた。
慰安婦巡り元朝日記者の敗訴確定 最高裁、上告退ける決定

最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は植村氏の上告を退ける決定をした。18日付。請求を棄却した一、二審判決が確定した。

 一、二審判決によると、桜井氏は、韓国の元慰安婦の証言を取り上げた1991年の朝日新聞の記事について「捏造」「意図的な虚偽報道」などとする論文を執筆した。

しかしこの名誉棄損裁判が無駄だったとは思わない。
裁判の過程で櫻井氏の根拠のひとつが虚偽だったことが明らかにされ*1、訂正にいたらせたからだ。
櫻井氏コラムで産経新聞が訂正 慰安婦問題 訴状めぐり:朝日新聞デジタル

櫻井氏は14年のコラムで、植村氏が韓国人元慰安婦・金学順(キムハクスン)さんの証言を掲載した1991年の朝日新聞記事を批判。「金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」と記した。だが、金さんの訴状に「40円で売られ」「再び継父に売られた」との記述はなかった。

さらに裁判の途中で植村記事のもととなった証言録音が発見され、証言者が「挺身隊」と自認して「武力で私を奪われた」と語っていたことも判明した*2
判決確定報道に対するインターネットの反応を見ると、裁判の過程で明らかになった事実に反する植村氏への批判が少なくない。せめて報道で周知されてほしいものだが。

*1:しかし櫻井氏の釈明をあらためて考えると、本当に「時によって」証言がぶれていたのであれば、植村記事の証言が他の場での証言と違って見えたとしても、それだけでは捏造と断定できなくなるだろう。一応、売られたという証言の根幹はゆらいでいないという主張とあわせてはいるが、後述のように証言者は強制連行されたという主張もしていた。hokke-ookami.hatenablog.com

*2:コメント欄で紹介している高裁判決は、こうした証言者の自認をそのままつたえると捏造したことになると判定しているかのようで、いささか理解しがたい。hokke-ookami.hatenablog.com

『相棒 Season19』第6話 三文芝居

電子部品メーカーの派遣社員がマンション玄関で死体となって見つかる。その事件の目撃者として名乗り出たのが、派遣風俗嬢を送迎している男だった。借金をかかえていた派遣社員が、はげしい取り立ての結果として殺されたというのだが……


映画監督の瀧本智行が脚本としてシリーズ初参加。シェイクスピアを好んで引用する元舞台役者で関西弁のデリヘルドライバーを中心に、現代的で奇妙な人間模様が描かれた。
被害者や関係者が「派遣」という不安定かつ流動的な立場で、予想外に接点をもって悲劇へ落ちていく。その裏の顔や、過去を捨てた立場からミステリらしい意外性が生まれる。
金銭の貸し借りで人間関係が連鎖していく構図も良かったし、派遣相互のドライな人間関係と因縁から支えあう人間関係を対照させたことも印象的。
一課のトリオによる闇金の大捕物や、デリヘル車内のカメラを固定した長回しの会話など、ドラマとしては目を引く撮影も多かった。


しかし脇役に容貌が目立つ俳優を配置したことで、途中で真相に見当がついてしまった。もう少し地味で埋没するメイクや演技をさせたほうが驚きが増したろう。もっとも、まったく印象に残らなければ解決編で驚きより困惑を感じかねないので、バランスが難しいところとは思うが。
また、その真相につながるちょっとした伏線は良かったが、そこで映していない手がかりを解決編で回想したこともいただけない。伏線の描写よりずっと前か後に、気づかれないよう手がかりを描写する余裕はあったはずだ。もっとも、手がかり描写が回想で後付けされることはシリーズの悪癖のひとつだが。
何よりの問題として、物語の中心人物に、かつて詐欺に加担して犠牲者を出した悔恨を設定したことが良くない。たった3話前*1と完全にネタかぶりしていて、そのため人間関係から事件全体にまで既視感がつきまとった。たぶん各話スタッフの責任ではなく、プロデューサーあたりが責任もってコントロールすべきところだろう。

来年の『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の予告映像とスタッフ公開

山口晋監督は今年の映画のオマケ映像から予想できていたが、まさか佐藤大脚本になるとは思わなかった。
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シンエイ動画では『怪盗ジョーカー』でシリーズ構成を担当していたが、あまり好きな脚本家ではないので悩んでしまう。
一応、脚本家として注目された作品のひとつ『攻殻機動隊SAC』の経験を見ても*1、反クーデターを描いた原作の現代的な再構成はできるだろうと期待したいが……
また、1980年代の原作が反共産主義クーデターを題材にしたらしいことを思えば、現代日本でリメイクするには細心の注意が必要だろうという思いもある。それもふくめてがんばってほしいが……


映像作品としては手描きメカ作画が魅力的で、小さくなって自動車の下をすりぬけるカットなどが目を引く。展開の根幹にかかわるためか、牛乳風呂もそのまま映像化されるようだ。
一方、予告などでは白組による3DCGが前面に押されているが、予告の冒頭を見るかぎり手描きアニメに合わせた質感にとどめていて動きは直線的。たぶんクライマックスの兵器いりみだれる決戦を見ないと真価はわからないか。

*1:歴史の大局的な流れに個が翻弄される神山健治監督より、この作品には向いているとは思う。