法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』マヌケな奴らが大集合全員逮捕だSP

2時間SP。テーマ的に警察を称揚するような映像ばかりだが、今回はミニコーナーでインドの警察が賄賂のとりぶんでケンカする場面を紹介したり、意外とボーダーラインを意識したような作りになっていた。
南米国境警察も、偽ブランド品の素材に対して、ナイキに似せたものは名前が違っていてもロゴが同じなので差し押さえ、アディダスは名前もロゴも違うので押収しないという判断の違いを見せたりする。
イギリスの万引き犯を監視カメラなどで追跡するドキュメンタリーも、一定金額以下であれば一定期間の店舗立ち入りを禁じつつも警察には通報しなかったり。
最後には、ローン会社に騙されて大損した男が、騙した男にショットガンをつきつけ60時間たてこもった映像を紹介。罪に問わないよう警察と約束して人質を解放しながら手錠をかけられ裁判にかけられたりと、これも動機をふくめて加害者にいくばくかの同情を感じさせる。スタジオでも人質のポケットに手をつっこんだ弛緩した姿から、加害者と被害者には語られない関係性があるのでは?という疑問が出されていた。

『世にも奇妙な物語 '20秋の特別編』

改変期恒例のオムニバスドラマ。今回は原作選定の方向性に時代の変化を感じたのが興味深かった。
www.fujitv.co.jp


「コインランドリー」は、貧しいフリーターの若者がコインランドリーで洗濯している時、ふと願ったビールが洗濯機から出てきた。それから若者は次々に願いを口にするが……
WEB漫画雑誌の少年ジャンプ+に掲載された短編漫画『ロッカールーム』が原作。舞台を変えているためか最初は気づかなかったが、オチに既視感があったので、たぶん以前に読んでいたのだろう。
ロッカールーム - 鈴木祐斗 | 少年ジャンプ+
なぜか願ったものが何でも出てくるコインランドリーから次々に新たな美女が出てくるシュールな映像が楽しい。ロッカールームと比べて不自然さはありつつ、状況の異常さが出ている。
人当たりがいいだけの主人公がなぜかたまたま会話しただけの女性から好意をもたれるが、女性側も就職で弱気になっている背景はあるし、展開の不穏さを感じさせるので、御都合主義とは感じない。
結末も、出てきたものが1日で消える設定が最後に反転するオチは見おぼえがあったが、状況を主人公が理解するまで無駄な時間をかけず、急転直下で終わった印象はいい。
原作ではさらにオチをひとひねりして主人公が奇妙な事態におちいっていくのだが、ドラマではわかりやすさを優先したこともわかる。


「タテモトマサコ」は、別部署ではたらく恋人がプロポーズしてきた翌日に墜死した女性の恐怖体験。恋人の後輩という女性や総務の館本雅子が謎めいた言動をとるが……
平凡な中年女性のようでいて存在感のある館本雅子を、大竹しのぶが淡々と演じる。撮影の工夫だけで1カットで回想に入ったりと、演出も良かった。
物語は「タケモトマサコ」が実は善人で、主人公に協力する社員こそが真の敵……といった想像をしたが、すべて外れ。能力の発動のためとはいえ饒舌に真相を語り、背景もたいしたことがなく、敵としても薄っぺらに思えたところで急展開。
孤独を癒やすためラクガキとイマジナリーフレンド*1に会話する「タケモトマサコ」を見せて、「タケモトマサコ」をあやつり利用する別人格がいるのかと思えば、それは異常な孤独を育てていたという描写。
そこから記憶を消す能力がある敵に一矢報いるという、バトル漫画のような結末にむかう。ホラーからの転調はこのドラマシリーズで珍しくないが、敵の能力を逆用するアイデアに無理がなく、主人公のような一般人でも可能なガジェットでのみ達成しているので納得感があった。そうして「タケモトマサコ」の脅威がいったん消えつつ、その能力そのものは野放しになる結末も適度にホラーな余韻があっていい。


「イマジナリーフレンド」は、臨床心理学を学ぶ女性がヌイグルミのようなイマジナリーフレンドに出会う。おさななじみへのイジメを見て見ぬふりしている負い目が生んだのか……
たまたまTVアニメ『ハッピーシュガーライフ』と同時期に見ていたこともあり、真の敵が誰なのかという真相は想定できた。しかしシンプルなどんでん返しとして無理がなく、嫌いではない。
ただイマジナリーフレンドが物理的に敵を攻撃するような描写はイマイチ。あくまで主人公が無意識に反撃して、それを主観ではイマジナリーフレンドの行動のように見てしまう……という描写にしてほしかった。結末で明らかにされた情報からすると、実はイマジナリーフレンドではなかった……という設定なのかもしれないが、その伏線がまったくないのも困りもの。
後づけの姉妹ではなく、おさななじみの生霊がイマジナリーフレンドを演じていた……みたいな重い百合なら、無駄なくまとまったと思う。一応、イマジナリーフレンドと別離して今度は主人公が他者を助ける立場になる結末へつながったので、おさななじみの存在が無駄というほどではないが。


「アップデート家族」は、平凡な三世帯家族の家長が、いきなり家のアップデートを宣言する。すると家族の構成員がつぎつぎに変化していって……
こちらは「ジャンプルーキー」に掲載された新人の短編漫画が原作。「ジャンプ+」ともども、さまざまな短編漫画を掲載できて注目も集められる場として育っていることを実感させる。
アップデート家族 - ジャンプルーキー!
かつて注目を集めがちだった「モアイ」は、いかにも『アフタヌーン』的な主流から外れた作品が多く、技術力も一定以上の高さがあるため、逆に場そのものの幅がせまく感じられるようになったのと対照的だ。
ただ、ところどころのツッコミは良かったものの、全体的にギャグのテンポが遅い。アップデートされてしまった祖母を悲しむ描写も、たぶん原作は不条理な笑いをねらっていただろうに、半端に感動的な演出になってしまっている。
原作は視聴後に初めて読んだが、そもそも人情的に泣かせる場面がないスピーディーなシュールギャグ漫画だった。いくつかのギャグは同じでも元の母親は旅行していたりと、全体的にのん気な空気。
実写化ならではの良さといえば、主人公がアップデートされて二次元美少女キャラクターになるオチだけ。それも短い描写にとどめていて、味わう余裕もなくタモリの語りにうつってしまった。
もっとボケとツッコミをたたみかければギャグとして楽しかったろうし、家父長に都合よいアップデートだけがされる前半を風刺として深めることもできたろう。特に悪い改変ではないと思うが、ポテンシャルを引きださない実写化が残念。

*1:直後のエピソードが中心モチーフにしているが、意図的だろうか。

『ドラえもん』テスト・ロボット/野比家でおもて梨

「テスト・ロボット」は、のび太ジャイアンが珍しく貸してくれた本を汚してしまう。そこで怒られずに返すにはどうするべきか、秘密道具で試行錯誤するが……
中期原作*1を、意外なことに2005年以降初のアニメ化。永野たかひろ脚本、杉島邦久コンテ。
冒頭の魚眼レンズや結末の極端なパースなど、ほとんど同じ一室を舞台とした物語で、できるだけ画面を変化させようとする工夫が良い。新たな顔にするたびに秘密道具がロボットアニメの起動シーンのように描写されるのも、いかにもサンライズで活躍したコンテマンらしいバンク演出で楽しかった。
構成は原作通りで、細部をブラッシュアップ。まずアニメオリジナルでドラえもん顔のテストをして、のび太の言葉への反応でまったく同じモーションをする描写が楽しい。漫画で同じ描写をしようにも、秘密道具とドラえもんの頭身が違うので難しいはずだ。
さらに母親のおつかいを断るテストで成功するパターンを見せて、のび太の描いた似顔絵が下手すぎて秘密道具に誤認識されるパターンも見せる。秘密道具の機能から考えられる原作とは違うパターンを説得的に描くことで、ジャイアンのテストに失敗しつづける大変さもきわだつ。
意外な逆転劇で救われるオチの切れ味だけは原作に劣っていると思うが、TVアニメで多くの視聴者に理解させるためにはテンポを犠牲にする判断もいたしかたないだろう。ややキャラクター作画の表情に固さを感じたが、全体としては良いアニメ化だった。


野比家でおもて梨」は、アカン王国の王様が国賓として歓迎されるニュースにはじまる。のび太は秘密道具でしずちゃんに歓待してもらうが、事故で自分に秘密道具をつかって……
鈴木洋介脚本によるアニメオリジナルストーリー。高貴な人への質素なもてなしが結果的に大好評という展開は、思えば原作者が好んだ落語にも「目黒のサンマ」という有名作がある。
おもてなしの内容は、のび太の全力が悪くない評価で、ドラえもんの努力が空回りするところまでは理解できる。国賓として招待された地域で、わざわざ庶民的な住宅街をお忍びで通行するような人物なら、何も知らない現地の子供ががんばってもてなすことを喜びそうな気はする。庶民的でいて普遍的な料理を出されて、口にあえば文化的な興味も満たされて喜ぶだろう。
しかし父親の水割りウイスキーを楽しむのはいいとして、もはや日本でも嫌悪されがちな「飲みュニケーション」が否定されなかったのは首をかしげた。のび太や母親の自分なりに全力でもてなす姿と違って、拒否できないような押しつけがましさがあった。さらに飲みすぎて倒れこむという、日本の文化でも失礼で、自身でも認める失敗をおかしたりする。
ここはイスラム教のようにアルコールを遠ざける文化も多いといった説明で、緑茶やほうじ茶を出したり、将棋にさそって時間をつぶしたり、いっそ日本文化をアピールする方向にしても良かった。やりすぎると自国文化を架空の外国人に絶賛させる嫌味が出てしまうが*2、そこは必ずしも喜ばれない反応を入れて、どのもてなしが相手に合うかをさぐっていく感じにすればいい。
それ以外でも、文化的なタブーやアレルギーなどの健康面に留意する描写がないことは気にかかった。それらを自動的にフォローする能力が秘密道具にある、という説明ひとつあれば納得したのだが。客の背景が完全に架空だからこそ、細部のそれらしさでリアリティを出してほしかった。

*1:単行本の収録は初期の7巻だが、すでに絵柄も構成も設定も完成されている。

*2:そういう意味では、どらえもんが秘密道具で出した刺身料理が、御馳走疲れで喜ばれなかったのは悪くなかったかもしれない。

『NHKスペシャル』 アウシュビッツ 死者たちの告白

ナチス強制収容所で同胞の虐殺に加担させられたユダヤ人の記録を描く。初回放映は8月16日。深夜の再放送で視聴した。
www.nhk.or.jp
サウルの息子』など映画化もされたゾンダーコマンド。虐殺の現場労働をしいられ、心身をすりへらしながら同胞には裏切り者と見なされた。
そんな彼らが虐殺をメモや写真で記録して、収容所のあちこちに埋めた。その限界ぎりぎりの抵抗を、記録をつたえられた側として紹介していく。


写真が発見された報道は目にしていたし、上記の『サウルの息子』を観た前後に関連情報を読んではいた。
だが、メモが古くから発見されていて調査がつづいていたことや、その文章が読めたのはデジタル技術で鮮明化できてからということは、今回の番組で初めて理解できた。
ドラマや3DCGなどでの再現はほとんどない。しかし広い収容所でメモが発見された場所を視覚化するだけでも、映像ドキュメンタリーならではの印象的な描写になっている。


見つかった記録が断片的なことから、逆に虐殺の全体像のはかりしれなさが実感できる。
そしてそのような記録の貴重さと、それを未来へ受けついでいく大切さもわかる。
それはナチスドイツに限らず普遍的に重要なことなのだ、と言外に語るような作りの番組だった。

『G-SAVIOUR-』

海底の研究基地で巨大ロボット「モビルスーツ」の操縦を担当していた元軍人マーク。ある日、沈没したモビルスーツを救助したマークは、宇宙から来た抵抗者と地球議会軍の衝突に巻きこまれる。そして人類を食糧危機から救う発光技術の争奪戦がはじまった……


アニメ『機動戦士ガンダム』を原作として、外国の制作会社とスタッフキャストで実写化した、SF長編TVムービー。1999年にイベント上映され、2000年12月に短縮版がTV放映された。

G-SAVIOUR-フルバーション- [DVD]

G-SAVIOUR-フルバーション- [DVD]

  • 発売日: 2001/05/25
  • メディア: DVD

物語は約1時間半でそつなくまとまっているが、良くも悪くも突出したところはない。新技術を目的として、ひょんなことから青年が身近な人間関係を離れて抵抗組織に参加し、勝利をつかむまでをシンプルに描いていった。
ニュータイプ等のニューエイジ的な設定はないし、モビルスーツは既存技術であって兵器開発競争みたいなシリーズの定番もない。米国らしいSFドラマのプロットをなぞるだけでオリジナリティや驚きはないが、おかげで破綻もない。
地球側を白人ばかりで構成して、宇宙側で多様な人種をキャスティングしていることも、最低限のことをやっている印象だ。最後まで引っかからずに見れて、しかし後に残るものがない。


10億円という制作費は邦画なら大作だが、欧米なら当時でも低予算の部類だろう。地球の描写はせまいセットや既存の建物でロケしているらしく、宇宙もどこかの植物園で撮影したようだ。プロップ類もありあわせですませているようで、あまりシリーズらしさをビジュアルで感じない。
何より3DCGで描写されたモビルスーツなどのVFXは現在から見ると厳しいクオリティ。いやリアルタイムで放映版を観た時点でも、ゲームのムービーと大差ない印象だった。おそらく同じ予算で日本の3DCG会社にまかせたほうが良い出来になったと思う。
たとえば山崎貴初監督作品の『ジュブナイル』も放映と同年の2000年に公開されている。わずか5億円の制作費で精緻なVFXを見せた。搭乗型ロボットのガンゲリオンがコンビニ街を跳躍する3DCG描写は今でも通用する。

ジュブナイル [DVD]

ジュブナイル [DVD]

  • 発売日: 2000/12/22
  • メディア: DVD

VFX制作会社の自社作品は例外というなら、1998年の『映画 ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち』はどうだろう。基本的にはキグルミ特撮だが、飛行戦艦から完全変形する巨大ロボットは3DCGらしい質感とはいえ見ごたえあった。

先行するリアルな巨大ロボットVFXといえば、制作中断した大作映画の技術を流用して実景にパトレイバーを合成した『PATLABOR THE LIVE ACTION MOVIE』というショートフィルムも1998年に作られた。
こうした日本の作品群と比べて『Gセイバー』は、宇宙の人工都市では同じ形の樹木が無機質にならび、建造物の質感はCG丸出しで、モビルスーツの描写量も多くない。ここには実写ならではの感動がない。
宇宙コロニーの巨大鏡面上に遠心重力で立ったモビルスーツが剣戟する斬新な映像や、外装を部分パージして危機を脱する定番など、メカ演出では良いところも多いが、とにかくVFXリソースに余裕がないためか破壊シーン*1や巨大感ある構図が少ない。
せめてそれらしい実景にモビルスーツと俳優を合成するカットが複数あれば、怪獣映画的な楽しみができたと思うのだが……


ただ、海外スタッフで映像化したおかげで、照明と撮影は世界標準だったと思う。
先述のように宇宙基地はただの植物園でロケしただけだと思うが、大きくふったカメラワークで空間の高さや広さを感じさせつつ、俳優の位置関係などもわかりやすかった。
会話の切り返しのタイミングも悪くないし、たぶん充分ではないセットやエキストラなのに場面ごとに求められるスケールを感じさせるよう切りとっていた。
撮影監督のジョエル・ランサムで検索すると、大作戦争ドラマ『バンド・オブ・ブラザース』の撮影担当のひとりだったり、トビー・フーパー監督の『悪魔の起源 ジン』の撮影も担当したようだ。

*1:多数のオブジェクトが飛び散る描写はそれだけ計算に時間がかかるし、破壊された状態のモデリングを新たに作る必要もあり、3DCGでは手描きよりも難しいことは理解するのだが。