法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『彼方のアストラ』は最後の謎解きより中盤の謎解きに感心したのだけれど

アニメ全話を見た正直な感想をいえば、ていねいにテンポ良く作られた『無人惑星サヴァイヴ』だな、といったところ。
彼方のアストラを最後までみたので感想を書くよ

SFとして世界の隠された真実に迫る作品なら最終話とあと一話ぐらいの短編で十分でしょ、子供たちが島流しになる必要もない。

アストラをめぐる最後の謎解きは、SFジャンルに限らない古典的なパターンにとどまり、さまざまな試行錯誤をしている過去の作品に比べて説得力を感じづらかった。あまりにも共犯者が多すぎる。
謎解きの端緒となる食い違いの違和感は良かったし、その食い違いが表面化する時に驚かすための仕掛けはていねいで良かったが、その時点で予想できた以上の驚きまでは見せてくれなかった。
むしろ世界の真実は、性別役割*1などの社会観が現代と比べても古びている物語を、現代から見た未来世界で展開させるための設定のように感じた。


比べると、島流しをめぐる中盤の謎解きは、その設定だけなら近い前例があるにしても、この作品のコンセプトに組みこんだこと自体に新鮮さを感じた。
少年少女が極限状況に置かれる導入で、その作為性があからさまであるほど、そのように画策した動機を設定することが難しい。『バトルロワイアル』に代表されるデスゲーム物で、途中までは楽しめても謎解きで肩透かしされる原因になりがち。
それを成立させる技術と、そうする必要性を途中の故郷視点でさりげなく説明。少年少女の設定にバラエティを生みつつ、いかにも少年漫画らしく美男美女ぞろいで、両親や家族に有力者が多いことも同時に説明してみせた。
そうしたSF設定の結果的にせよ、血縁主義や家族主義を逸脱し反逆する展開になったのも珍しさがあった。少年漫画は無力な主人公で始まったとしても、連載がつづくにつれて家族主義や血縁主義にからめとられがち*2


ただ、少年少女のサバイバル物として見た時、生命の危機にどれくらい本気で向きあうかが、ところどころで乱高下したのは気になった。
事前情報で病気や毒を気にしない惑星のみを渡っているという設定で一貫しているなら、それはそれで良かった。なのにヘルメットをしていないせいで毒を吸いこみ全滅直前まで行ってしまう。その毒をめぐる生態系の設定は面白かったし、直後のリゾート的な惑星は納得できたので、もう少し不自然でない少年少女とのからませかたがあったように思える。
同期のアニメで『ソウナンですか?』が現実を舞台に豆知識をまじえたサバイバルを展開していたので、つい比べてしまったのも不運だったかもしれないが。

*1:とはいえ、技術的に活躍する女性が、医療担当のひとりだけというのは、さすがにもう少し工夫がほしかった。

*2:本当は愛されていたという印籠を読者が欲しているといえばそれまでだが - 法華狼の日記で言及した記事では、特に少年ジャンプ系が名指しされてていた。

『宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海』

2014年に公開された長編総集編。もともと『宇宙戦艦ヤマト2199』自体が各編を劇場公開し、後にTV放映したシリーズなので、新味があることを期待していた。

地球出発までのドラマとイスカンダルからの帰還を大きく削除して*1イスカンダルへ向かう途中が中心となるよう編集。地球への帰還を描いた完全新作長編の『星巡る方舟』への期待感を煽るつくり。
もっと視点を偏らせた作品かと予想していたし、そうした案をスタッフも出していたことが舞台挨拶などで語られていたが、実際は素直に約2時間にダイジェスト。新規カットやリテイクはあるが、シーンそのものの追加がないので、あまり印象が変わらない。帰還時のコスモリバースをめぐる描写が、蘇生的に見えて好みではなかったTV版*2とは違っているように、TV版にわずかにあったツッコミどころはていねいにつぶされていたとは思うが。
艦内の日常を補完するようなEDの新規イラストは楽しかったが、あくまでファンサービスの範疇。良くも悪くも手軽にふりかえって楽しませることに徹した総集編だった。

*1:ついでに女性の性的なサービスカットも相当に減っていて、たとえばイスカンダルでの水着がない。

*2:『宇宙戦艦ヤマト2199』第26話 青い星の記憶 - 法華狼の日記

『スター☆トゥインクルプリキュア』第34話 つながるキモチ☆えれなとサボテン星人!

星空連合からサボローという名前の視察員がやってくるので、星奈たちは出迎えることとなった。やってきたサボテン型の異星人は音声でコミュニケーションがとれなかったが、天宮がボディランゲージで意思疎通に成功する。しかし実家の花を贈ったところ……


今作の小林雄次脚本回では初めて感心できたかもしれない。周囲よりも大人にふるまい難題をやりすごす天宮が、もともとボーダーラインに立つ人間として、いつも以上に苦労を背負うドラマとして印象深かった。
異星人のプルンスですら音声でコミュニケーションがとれないなら、肉体的にまったく異なる地球人のボディランゲージも通用しなさそうだが、そこさえ目をつぶればファーストコンタクトSFとしてよく構成されている。ゲストキャラクターと最後まで言語的なコミュニケーションはおこなわなかったことも、低年齢向けアニメとして挑戦的だ*1


星空連合から調査に来たはずなのにコミュニケーションができないという導入に、実は偶然に来訪した別人という真相を用意。そこまでは古典的なパターンの応用だが、そこから無私の友情をはぐくむ物語につなげた。
宇宙的な連合に認めてもらうためでなければ、もちろん大規模なイベントを招致するためでもない、偶然におとずれた対等な相手への「おもてなし」。それを美しく描いたこと自体に意味がある。
植物型の異星人だから花を切り売りする文化に怒ったのかと思いきや、サボテン型異星人が自身の肉体に咲いた花を贈るラストで、どこまで何を怒っていたのか不明瞭になったが、それも逆にSFとして良かった。

*1:もちろんEテレで放映される短編のように、言語的に未発達な段階の視聴者に向けては、台詞や字幕を用いないアニメは数多あるだろう。しかし「プリキュア」で想定される視聴年齢層は、それよりは少し上のはずだ。

反論する形式でhokusyu氏の根拠を提示してしまったcider_kondo氏

発端は、あいちトリエンナーレ2019への交付金が出されなくなったことを憂う海法紀光氏のツイート。

それに対して、海法紀光氏も脚本家として加担した「そうしたもの」の帰結ではないかとid:hokusyu氏がツイートした。

おそらくは『魔法少女特殊戦あすか』第2話の件だと思うが、私は原作もふくめて未見なので、ここでは踏みこまない。


問題なのは、hokusyu氏のツイートにはてなブックマークが集まり、なかでもid:cider_kondo氏による下記のコメントが人気になっていること*1
[B! 表現・思想] 北守 on Twitter: "三浦瑠麗のスリーパーセル妄想に即したような脚本書いて、あんたも朝鮮半島ヘイトに加担したでしょうが。この事件はそうしたものの帰結ですよ。 https://t.co/Nvyv0Qz2pZ"

その程度で「帰結」と言われるんだったら、大誤報を「政治課題となるよう企図」したタイミングで報道したhttps://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122337.html 朝日新聞とか、責任重大過ぎて死ぬんじゃねーの?(素朴な疑問

cider_kondo氏が紹介しているのは、従軍慰安婦問題の朝日検証に対する、第三者委員会の報告をつたえる朝日新聞の訂正ページだ。
朝日新聞社インフォメーション | 記事を訂正、おわびしご説明します 慰安婦報道、第三者委報告書 朝日新聞社
明らかにおかしいのは、ページ内で「政治課題となるよう企図」と第三者委が評価している記事は、同時に「記事には誤った事実が記載されておらず」とも評価されていること。

(1)について、第三者委の報告書は「(首相訪韓直前のタイミングを狙った)実態があったか否かは、もはや確認できない」としたうえで、前文の表現などから「訪韓の時期を意識し、慰安婦問題が政治課題となるよう企図して記事としたことは明らか」と指摘しました。(2)については、「記事には誤った事実が記載されておらず、記事自体に強制連行の事実が含まれているわけではないから、朝日新聞が本記事によって慰安婦の強制連行に軍が関与していたという報道をしたかのように評価するのは適切でない」としています。

他の記事もふくめれば、他のメディアと比べて少ないながら朝日新聞にも誤報があったと評価するのはいいだろう。しかし「大誤報」などという評価は、他の記事をふくめても第三者委そのものからは出ていた記憶がない。
歴史学会の共同声明を見れば、朝日新聞が撤回したような一部記事は「政治課題」と関連していないことがわかるし、むしろcider_kondo氏やその賛同者のような主張が表現や学問の自由を抑圧したとも論じられている。
「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明 - 東京歴史科学研究会

日本軍が「慰安婦」の強制連行に関与したことを認めた日本政府の見解表明(河野談話)は、当該記事やそのもととなった吉田清治による証言を根拠になされたものではない。

一部マスメディアによる、「誤報」をことさらに強調した報道によって、「慰安婦」問題と関わる大学教員とその所属機関に、辞職や講義の中止を求める脅迫などの不当な攻撃が及んでいる。これは学問の自由に対する侵害であり、断じて認めるわけにはいかない。


もちろん、朝日新聞が「大誤報」したという虚偽はcider_kondo氏ひとりが流布しているわけではない。だからこそ、cider_kondo氏が海法紀光氏を擁護しようとコメントしたのならば、すぐにでも訂正してほしい。
戦時性加害の表象が弾圧された事件に対して、もし加害に加担するような虚偽を流布すれば、表現者と弾圧者のどちらを助けることに帰結するのか……少し素朴に考えるだけでわかるはずだ。

*1:はてなスターを集め、現時点で最上位に表示されている。スターをつけているはてなアカウントを列挙すると、id:Outfielderid:Parakerususuid:whkrid:babelapid:kalmalogyid:hmasah8id:timetrainid:mz88av40id:hazardprofileid:zionsid:sakamoto_tarouid:Ivan_Ivanobitchid:kirifuuid:bteiid:reiwa00id:oktnzm

マッドハウスにつづいてSTUDIO4℃の制作進行もブラック企業ユニオンに加入したとの情報

会社としての体制に問題があることは、視聴者の立場でも良くない話をいくつも目にしてきたので*1、残念ながら意外性はない。
【スタジオ4℃(1)】映画『海獣の子供』『鉄コン筋クリート』のアニメ制作会社「スタジオ4℃」で残業代未払い・労働環境改善を巡って団体交渉|総合サポートユニオン|note
労基署に訴えても動いてもらえず、やむなくユニオンに加入したとの経緯から、アニメ業界にとどまらない日本社会の問題ということもうかがえる。

Aさんは労働基準監督署に申告しましたが、労基署の監督官も会社の主張に従ってしまい、「タイムカードの期間に労働していたという証拠を提出してほしい」と2年間全日程の労働実態の証拠の提出を労働者に求めるというおよそ実現の困難な回答をしてきました。
これらの対応を受けて、Aさんは人気アニメ制作会社マッドハウスとの団体交渉が報道されていたブラック企業ユニオンに今回加入したのです。

一点だけ救いがあるとすれば、先に戦おうとした人物がいて、きちんと報道されたことが、今回の動きにつながったこと。その人物が戦う決意をしたのも、報道があってのことだった。
ブラック企業ユニオンにくわわったマッドハウスの制作進行に、文春がくわしくインタビューしていた - 法華狼の日記

過去の死が助けになったという話ではない。問題がきちんと表面化して報道されたことが、時間がかかりつつも次の世代に良い影響を与えられたのではないか、という話だ。

すぐ目に見える成果が出なくても、戦うことは無駄ではない。そう信じたいものだ。