法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season22』第19話 トレードオフ

 下川法務大臣の指揮権発動により、与党幹事長の収賄捜査は停止され、特捜部長の尾上も屈した。そのなかで政治学者の乙部はTV番組で政権批判をくりひろげ、尾上に期待する発言をする。
 乙部はひとりの若者に襲撃され、反日学者として強要された謝罪を撮影された。乙部は若者が誰かに操られている可能性を特命係につたえる。また、乙部は自身をTVに起用した西村プロデューサーの気骨を評価していたが、その西村が殺され……


 最終回スペシャルの前編。輿水泰弘脚本に橋本一で古典的な政権批判ドラマから導入する。
 発端の収賄問題だが、制作期間から考えると、自民党の裏金問題がもりあがっている時期の放映になったのは偶然だろう。むしろ指揮権の発動などせずとも与党にとって致命的な捜査はふせがれてしまっているのが現実だ。
 ここで政治学者のキャラクターが意外と良い。調子よく政権批判したり特命係になれなれしかったり軽い性格でありながら、いったん警察に処罰させようとした若者が利用されている可能性に気づけば警察につたえる。脊髄反射で行動する情けない人物のようで、最低限の倫理にしたがって行動するところに奥行きがある。この軽々しさと強靭さのバランスは、良くも悪くも真面目に寄せざるをえない現実の近年の左派的コメンテーターにない味わい。


 襲撃した若者のインターネットにおける言動を二課の角田課長が「ネトウヨ界隈」という表現で論評したり、サイバーセキュリティ部署の土師が若者たちの論調を全否定しなかったところも興味深かった。私は基本的につかわないようにしている表現だが、とうとうこのような人気ドラマでもそのような表現がつかわれるほど定着したのだ。警察のサイバー課がネットの右派に親和性があるところは納得感があり*1、そこで「ライト」という表現を自認につかったところは若手の保守的な歴史学者が著名な歴史学者を「レフティ」と呼んだ事件を思い出す*2
 その若者は父が極道で母子家庭で育ち、亡くなった母がヤクザから借りた法的には返済する必要のない借金に苦しんでいるところは、いわゆる「ネトウヨ」を貧しい若者にかさねあわせる誤ったステレオタイプかもしれない。しかし、社会を批判する視座をもてないがゆえに連帯や抵抗ではなく孤立した犯罪に走ってしまうキャラクターとしては成立していたと思う。まだ犯行の真相などはわからないので、この感想も次回を見ると変わるかもしれないが。

*1:杉下を動画の発信元として特定する結末の描写と、次回予告で確定した情報をあわせると、土師は結末の状況をつくりあげた実行犯なのかもしれない。だとすれば「ダークナイト」よりは納得感がある。

*2:hbol.jp