法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バットマン ビギンズ』

 悪徳の街ゴッサムを良き方向に導こうとしていたトーマス・ウェインは家族をまもって強盗に殺される。息子のブルースは復讐心をかかえて育ったが、釈放された強盗は強大な別の悪党に殺されてしまった。悩みをかかえたブルースは世界を放浪し、やがてアジアでラーズ・アル・グールという男に指導されることになるが……


 2005年に公開された米国映画。クリストファー・ノーラン監督による『ダークナイト』三部作の一作目。TV放映版しか視聴したことがなく、今さらながら全長版を視聴した。

 舞台となるゴッサムシティは架空のウェインタワーとモノレール以外は普通の都市をそのまま映しているだけだが、低層にもぐると犯罪の街という実態があらわになる構造はおもしろい。
 ミニチュアを素材としてVFXで表現した修道院や島は見ているだけで楽しいが、思えばウェイン邸もアーカム病院も地の底に本性を隠しているという美術設計で一貫している。


 物語は記憶以上に渡辺謙が演じるラーズ・アル・グールの役割がどうでも良すぎる。第二の影武者のモブっぽさは記憶どおりだったし、渡辺謙もふくめて設定からしてハリボテなのでこれ自体は問題ないが。
 それでも結局は何もかもデュカードの掌で踊っていただけというスケールのちいささは残念だったし、そのわりにデュカードの末路が情けなさすぎる。しかもそこでバットマンが意図的に見殺しにしているわけで、復讐を出発点にしながら殺害だけはしないヒーロー像にブレが出ている。
 ゴッサム全体を終わらせるデュカードの作戦も説得力がない。あれだけ広く裕福な都市なら誰かが霧吹きや超音波加湿器をつかうだろう。むしろそれらによる異常行動の発生を伏線にしても良かった気がする。


 そして記憶以上にひどいのが等身大の殺陣。特に忍者アクションがモタモタ遅い。監督作品を複数見て、等身大のアクションが上手くないことは認識できていたが*1、専門のアクションコーディネーターを集められるハリウッド作品でここまで格闘戦がヘタクソに撮れるのかとビックリする。
 逆に記憶以上に良かったのが中盤のカーチェイスで、戦車のように障害物を粉砕する疾走から屋根から屋根へジャンプするギミックまで、実写とミニチュア特撮をくみあわせた描写が楽しいし、ギリギリでせりあう緊張感もある。本筋とは関係がないので、かつてTV放映で見た時は削除されていたのかもしれない。
 クライマックスのモノレール決戦も地上でのバットモービルと並行して描写され、ビルに到着するまでという視覚的にわかりやすいタイムリミットサスペンスもあるため、うまく緊張感が生まれていた。過去にないゴツゴツしたバットモービルバットマンにたくされた巡査部長がおっかなびっくり操縦するシチュエーションも良い味を出している。