法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ユージュアル・サスペクツ』

 ある艦船のなかで男が拘束されていた。顔の見えない別の男が燃料をまいて炎上させる。その事件より少し前、5人の男たちが警察につかまっていた。銃器強奪の容疑がかかっているという。釈放された5人だが、同時に拘留されたことをきっかけに、協力して犯罪をおこなう計画をたてていく。そしてそれらの出来事の背後に、カイザー・ソゼなる謎の犯罪者の存在がちらつく……


 1995年の米国映画。時系列を前後させながら謎めいた展開を見せるクライムサスペンスで、ブライアン・シンガー監督の初期代表作。

 どんでん返し作品の代表的な映画だが、そう思って観賞すると期待ほどの意外性はない。謎の犯罪者カイザー・ソゼが実在しない可能性も、他の登場人物の別の顔という可能性も、途中の会話で言及される。もっと物語の構造レベル*1でひっくり返さないと、観客が疑う範囲にカイザー・ソゼの正体がおさまってしまう。
 とはいえ複数の伏線によってカイザー・ソゼの正体をしぼりこんでいく描写は謎解きの興奮が感じられたし、ほとんどひとりの生存者の証言に依拠していた根拠薄弱さも逆に証言の虚構性を強調するツイストで楽しませてくれた。
 銃撃戦は1995年の低予算作品としては充分リアルかつダイナミック。燃料をつかった艦船炎上なども悪くない描写で、クライムアクションとしても普通に楽しめた。


 なお、これが出世作となったブライアン・シンガーバイセクシャルと公表して活動していたが、1997年以降から未成年男性への性的暴行が何度となく告発されてきた人物でもある。
 この作品でアカデミー賞助演男優賞を獲得したケヴィン・スペイシーも、2017年に未成年男性に性的暴行したとして告発されて、複数作品が封印されたり降板となった。
 どちらも刑事裁判での有罪は回避されたし、全件で無罪判決が出たケヴィン・スペイシーはむしろ今後に偏見をもたないよう注意すべきだとも思うが、いったいなんなんだこの映画?!と思うのも正直な感想ではある。

*1:たとえばカイザー・ソゼというキーワードを証言すること自体が暗号として機能する、とか。