法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バンデッドQ』

両親と少し距離のある11歳のケヴィン少年。自室のベッドに入っていると、クローゼットから馬に乗った騎士が飛び出てきたり、小人の盗賊団があらわれたり。
盗賊団は神様から地図を盗んで逃げていた。巨大な顔だけの神様から逃げる盗賊団に巻きこまれ、ケヴィンは時間をさかのぼって有名な英雄たちと邂逅する。
しかし神様の地図を魔王に奪われ、ケヴィンたちは巨大な城で戦うことに……


テリー・ギリアム監督らしい、夢うつつに時をめぐるブラックでアナログな作品。
邦題は『ウルトラQ』を意識したものだろうか。原題はいかにもタイムスリップする盗賊団らしい“Time Bandits”。
2時間10分の作品として1981年に公開され、日本では短縮改変版が1983年に公開された。


まず、低身長に劣等感をもつナポレオン、言葉たくみに革命資金をまきあげるロビンフッド、好感はもてるがおおらかすぎるアガメムノン。そうした美名とギャップのある英雄描写がギャグとして楽しく、同時に批評的でもある。
そしてタイタニック沈没から、帆船を帽子のように頭へ乗せた巨人、ひたすら見あげるしかない巨大な魔王城と、アナログな特撮の魅力あふれる冒険譚へと移行していく。多用されるミニチュアが、手ざわりある造形物として物語世界を豊かに感じさせる。
具体的にいうと、巨人が家屋を踏みつぶす場面で暗がりに住人を合成する技巧と*1、魔王城を延々とトラックアップしていくカメラワークと、城への侵入を人形で表現した場面が、それぞれ味わい深くて良かった。


そして騒々しい活劇は神様の介入であっさり終わり、一種の夢オチにいたる。しかし期待外れという感覚はない。そもそも夢の中の冒険ということは、騎士の初登場が夢に終わった描写で示されていた。
さらに物語は終わらず、まだ現実に戻っていないというツイストが入る。日本での短縮上映版では削除されたそうだが、ブラックなツイストがあってこそテリー・ギリアム監督らしいといえるし、このダメ押しがなくては伏線が意味をなさない。
父母を失うという現実を知ってこそ、それを夢のような冒険の結末として見るしかなかったケヴィンの心情によりそったドラマとして完結するのだから。

*1:画像はロッテン・トマトに掲載された予告映像の1分30秒ごろ。予告全体も、撮影風景をおりこんだ楽しい作りになっている。Time Bandits (1981) - Rotten Tomatoes