法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『美鳥の日々』

 狂犬と呼ばれて恐れられている少年、沢村正治。しかしある朝、沢村の強さを象徴する「悪魔の右手」の手首から先が、ちいさな少女の上半身になっていた。
 少女は春日野美鳥と名乗り、普通の人間だった時は沢村に片思いしていたと告白する。少年と少女の不思議な同居生活がはじまり、その変化は学校の周囲におよんでいく……


 井上和郎の同名漫画を連載終盤の2004年にTVアニメ化。『英國戀物語エマ』や『十二国記』の小林常夫監督、スタジオぴえろ制作という布陣。

 井上作品らしい風変わりな状況設定で性差を撹乱するラブコメを、全体としてバランスよく映像化。リアルに考えればグロテスクになりかねない設定を、原作のシンプルな絵柄にそって嫌味なくドタバタコメディとして成立させている。主人公と対立者の闘争でヤンキーを美化しすぎないし、ヤンキー視点のオタク描写も、時代を感じる気持ち悪さと誠実さのバランスがとれていて見ていられる。
 映像も1クールとはいえ2004年のラブコメアニメでは破格に作画が安定していて、日常の芝居も無理なくこなし、不良アクションも小気味よく動く。第11話のキャラクターデザインを尊重しつつ個性を出した良作画が特に良かった。このころフリーだったスタジオジブリ常連の大谷敦子も、スタジオぴえろ作品に参加する流れで原画に複数回クレジット。3DCG背景をつかった要所のカメラワークも、当時の技術で可能な範囲でうまくつかっていて違和感がない。
 ただ、セクシーさというより恥ずかしさを表現するための少女の乳首が、色指定が明るすぎるピンクで画面から浮いている。キャラクターデザインにあわせるなら、もっとシンプルな乳首で良かったし、作品の雰囲気にあわせて省略しても良かった。