オーディションを受けていた女優が、立ち会っていた演出家に呼び止められて酷評される。後日、血まみれの女優を特命係が呼び止めると、演出家が殺されたことがわかる。襲われた女優が正当防衛で殺してしまったと考えられたが……
森下直脚本で、少し遅れたMeToo運動を感じさせる物語。性暴力へ復讐するための殺人というテーマが前回*1を思わせるが、今回は犯人は自明でトリックだけが不明な一種の倒叙ミステリ。
てっきりひとりだけ残っていた劇団員が崇拝するゲスト主人公のために動いていたかと思いきや、その劇団員はゲスト主人公の演技に騙されていたという真相は意外。それどころか、アルバイト先の店長がゲスト主人公の弱音を知っていたことこそが奇妙だと指摘され、異なるかたちの性暴力が同じ女優を標的にして、つぶしあわされたという皮肉な構図はおもしろかった。
しかし店長の盗聴に気づいて逆用するトリックをしかけるのは良いとして、録音を中断して場所を移動してもバレないと女優が判断した根拠はよくわからない。録音型盗聴にくわしいわけではないが、録音の時刻や中断したことがデータで残らないのだろうか。杉下右京が残響で場所を移動したと判断したことは、冒頭のクラシック音楽についての会話が伏線になっているので納得できるが。
それに演出家を稽古場で殺してから自宅に移動したという順序も首をかしげる。自動車などで運んだ描写は省略されているのだとしても、自分より体格が大きい死体を女性がかかえて移動する体力がどこまであるだろうか。稽古場で演技の練習をした後、自宅にやってきた演出家を殺したという順序にするだけで自然な移動になったのではないだろうか。演出家が自宅にくるかを試して、本当に性暴力をおこなうような男なのかを見きわめる描写にもできる。