法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』アブナイ大移動SP

「危険なお仕事 ケニア編」は、ぬかるみが多く舗装もろくにされていないケニアにおいて、高級魚ナイルパーチで経済が動く姿を描く。
 前回放送の感想*1で恒例あつかいした悪路を進む大型自動車が、いきなり今回も。しかし悪路を進む困難そのものより、悪路の周囲に住む人々が道路への復帰を手伝って賃金を要求する文化に焦点をあてて、印象を変えていた。さらに積荷がスズキに似た高級魚のナイルパーチで、冷蔵設備もなく灼熱の大地を腐らせず運ぶため、削った氷を何度もかけなおす苦労にタイムリミットサスペンスの要素が生まれていて、他人事としては楽しい。
 サブエピソードとして、湖の小島に移動の必要がないくらいバラック式の住宅や商店が密集している光景も。これもナイルパーチ漁をおこなうために漁師があつまって形成された街で、小島の周囲をぐるりと漁船がかこむ風景ともども資源としての貴重さを実感させる。
 また気候変動の影響か、水没して寸断された村で学校に行くまで小舟で川をわたる子供たちもいる。何人もの犠牲を出している危険なワニがいる川だが、舟が面倒な教師は川を歩いてわたるし、村人もなれっこになって近づいたワニに警戒しない。ワニを満腹にさせようと餌付けする村人までいる。


「イタリア鉄道警察」は、移動中ではなく、あくまで各駅で問題に対処するため、今回テーマの移動らしさを感じない。
 怪しげだが犯罪につながる物をもっていなかったカップルが、実は無賃乗車しようとしていたため挙動が怪しかったというエピソードくらいか。それが発覚した理由の、乗車用と降車用のホームが別々になっているという駅の構造も興味深かった。


「世界で活躍するネパール初のサーカス団」は、ネパールからインドへわたってサーカス団をひきいることになった女性の数奇な半生を追う。
 日本初公開では原題をいかした『サーカス・カトマンズ たとえ堕ちたとしても』というタイトルで、BS世界のドキュメンタリーでは「サーカス・カトマンズ 少女たちの再起」というタイトルで放映された作品。
表現活動のパワーを生み出した彼女たちの「誇り」【アジアンドキュメンタリーズ】伊達文香さんが『サーカス・カトマンズ たとえ堕ちたとしても』を語る | FLAG!web -広島の"今"を発信するローカルマガジン-
「サーカス・カトマンズ 少女たちの再起」 - BS世界のドキュメンタリー - NHK
 オーナーの息子と結婚したサーカスの花形サラスワティだが、実は人身取引の結果として家族からひきはなされていた。支援団体の活動で家族と再会できたサラスワティは、夫も亡くなって興行も苦しくなったサーカスをたたむことを決意し、ネパールへ帰国する。そのネパールでは他にもサーカスに売られた子供たちがいて、サラスワティは施設で彼らを導く立場となる。
 人身売買でサーカスに売られるという、都市伝説のような問題が社会に根深く蔓延していることに衝撃を受ける。サラスワティがたちあげたサーカス団がネパール初というふれこみも、高級商品を「輸出」している国家がそれを楽しむことができない問題を思わせる。体罰を受けたりした虐待の被害者でありつつ、子供たちの共通言語と幸福な記憶はサーカスにしかない逆説も痛々しい。それでも、ナレーションが言うように過去を未来への武器にする姿は感動的だ。
 しかし歓迎されたというパフォーマンスは断片的に映されるだけで、華やかな海外公演とネパール大地震後の街角興行などの状況にあわせた演出や芝居の違いがきわだたない。ダイジェストで楽しむには人生も社会も激動しすぎていて、このドキュメンタリをきちんと味わうには全長版を見るしかさそうだ。