法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『特集ドラマ「軍港の子~よこすかクリーニング1946~」』

 父は戦地から帰らず、母は空襲でうしなった小川今日一は、終戦直後の横須賀で親戚の家に身をよせていた。しかし親戚よりさらに貧しい食事しかあたえられず、いつもクリーニングの仕事を強要されていた。
 ある日、運んでいた衣服と乗せていた自転車を戦争孤児に盗まれた小川は、親戚からはげしい体罰をうける。ついに小川は家出して、逆に戦争孤児たちの仲間になって、子供だけのクリーニング店を開こうとするが……


 NHK総合で22時から1時間超で放映された戦争孤児ドラマ。原作の西田彩夏は、主に演劇で俳優と脚本の仕事をしているらしい。
www.nhk.jp
 NHKの特集ドラマらしく、映像には力が入っている。VFXは遠景の軍艦くらいだと思うが、とにかく撮影セットの広さと作りこみが素晴らしい。おそらく既存セットを飾りこんだ冒頭の街角もよくできているが、戦争孤児が拠点としている砲台跡や、人々が生活している闇市のセットがとにかく広く、生活感が出るようしっかり汚されている。セットやロケの広さを利用するように、手前で主要登場人物が芝居している時、画面奥の遠景にエキストラを配置して奥行きを出している構図を多用しているところが印象的だった。


 物語としては、主人公の立場で『火垂るの墓』を思わせつつ、親戚の仕打ちを明確な虐待として描いて、主人公がわがままなだけという誤読がされないようになっている*1。親戚の家から石鹸とブラシを盗むが、しかたのないことだと納得できる雰囲気になっている。そして戦災孤児だけでなく傷痍軍人やパンパン、進駐軍などもきちんと用意して、味方になるかと思えば意外な障害になったりもして、主人公を予想外に動かしていく。
 意外なことに、子供たちだけの商売が軌道にのって冒頭のクリーニング店になったという展開ではないし、子供だけのちいさなクリーニング工場もささいな攻撃で挫折して崩壊する。大人たちによって戦争孤児は官憲につかまれば施設におくられて虐待の危険にさらされるが、普通の大人もさまざまな理由で虐待するし、戦争孤児の仲間でも衝突から憎悪がうまれることもある。豊かさの象徴である進駐軍も、主人公の働き口として助けになるだけでなく、特権をもつ占領者として無責任に行動するし、終わったはずの戦争の象徴として主人公の拒否感も生む。次々におこる出来事で、記号的だった立場のさまざまな側面がうつしだされて、けしてひとつの立場を美化しすぎないドラマをつくりだしていた*2


 愚かな戦争によって傷つけられた人々は、戦後も連帯する余裕をうしなって無駄にたがいを傷つけていた。
 そのような戦後日本で経験をかさねる主人公は、最初からクリーニングに近い仕事に何度もつきながら、あえて遠回りすることを最後に選択する。
 長期的な目標をもつことのたいせつさを描いたことで、過去の歴史の記録と教訓にとどまらない、現代社会にも通用する普遍性あるドラマとして見ることができた。

*1:火垂るの墓』に対する「誤読」は監督によって予見され、何度となく話題にされてきた。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:現在にも偏見がのこるパンパンのみ、劇中では子供に好意的な人物しか出さないが、戦争孤児の少女をパンパンにしないよう主人公へもとめる場面もあり、仕事としては無批判な賞揚はしていない。