法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『恐怖の足跡』

 女性たちと男性たちが、それぞれ一台の自動車で野良レースをはじめる。白熱する戦いは橋の上までつづき、女性たちの乗る自動車が川へ転落した。かろうじてひとりの女性が泥まみれになって岸にはいあがるが、その日から女性は謎の人影に悩まされる……


 モノクロスタンダードサイズの1962年の米国映画。ある種類の物語のパターンの先駆として一部で知られている古典ホラー。

恐怖の足跡(字幕版)

恐怖の足跡(字幕版)

  • キャンディス・ヒリゴス
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 主人公の女性がオルガン奏者であるように、きちんと音声がついたトーキー映画というところがポイント。出没する謎の人々は、まるでサイレント映画のような隈取り白塗りが不気味で、大挙して主人公を追いかける速さもサイレント映画独特の動きを思わせる。主人公が境界をこえてしまいそうになると世界が無音になる描写も音響演出として効果的。教会のオルガン演奏を仕事とわりきる合理的な主人公が非合理な恐怖に追跡される構図も、トーキーとサイレントのような時代性の対立を思わせる。
 映像面でも、主人公が川で発見される泥まみれの俯瞰描写や、扉ごしに男女が会話する境界線表現、高速でとばす車窓に映る人影、廃墟になった遊園地、水中からゆっくり頭を出す男など、今見ても良い絵が多い。さすがに冒頭のカーレースは現在のカーチェイス演出とくらべると遅いし、ホラー映画としては牧歌的なテンポだが、全体的に映像面で気になる粗はなかった。


 しかし注目の物語パターンについては、期待よりも良くなかった。真相を主人公が理解して恐怖する場面もないし、伏線らしい伏線もない。このパターンに現代なら求められる超常現象なりのルールがなく、合理的に恐怖から逃れられないのではなく非合理的に恐怖が発生する物語になっている。真相の判明がオチと一体化した切れ味の良さはあるので、パターンの先駆とは知らずに視聴すれば意外性もあって楽しめただろうが。
 あと、Amazonプライムビデオで視聴したのだが、おそらく権利関係で独自に翻訳字幕をつけた作品にありがちな日本語のつたなさ、校正ミスらしい文字の欠落がところどころ見られたところが残念だった。