法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『貞子』

 アパートの一角で、幼い少女が母親に監禁されていた。思いつめた母親の行動が、悲惨な事件につながる。一方、心理カウンセラーの秋川茉優は、つとめている病院で奇妙になれなれしい中年女性の相手をしていた。少女と中年女性には、「貞子」という呪われた共通項があった……


 鈴木光司の『リング』シリーズ短編を原案とする、2019年の日本映画。十数年ぶりに『リング』*1中田秀夫監督がシリーズに復帰した。

 消費されきったシリーズで、オリジンの監督を呼んでシリアスなホラー映画らしさをとりもどそうとしたのか。そう思って、深夜におそるおそる鑑賞したのだが……ただ進歩のない描写を工夫なくならべる、刺激が弱いだけの凡作だった。
 構図もカット割りの呼吸も緊張感がない。回想で使われる『リング2』の映像と比べた時、恐怖描写の演出力が落ちていることがよくわかる。


 現代らしくYOUTUBERが都市伝説の場所に踏みこみ、それが呪いの映像として拡散されるのだが、呪われるルールが最後までよくわからない*2。何万回も再生されて多数が視聴したはずなのに、その影響で大量死が起きたらしい描写がどこにもない。呪われる範囲はYUTUBERだった主人公の弟と、それを助けようと奔走した主人公だけ。弟がたよったアドバイザーの男は呪いにかかわりながら劇中では死なないし、ライバルのYOUTUBERも呪いの映像が混入するだけで顛末は描かれない。
 その呪いの配信映像は悪くないが、劇中映像の見せかたが良くない。燃えたマンションの一角に潜入する主人公の弟を自撮りで見せていくのだが、せっかく燃えた一角のセットを大がかりにリアルにつくって、弟の俳優の一人芝居も悪くないのに、無言で視聴する主人公のアップショットが何度も挿入されて恐怖が寸断される。この時点の主人公は呪いへの恐怖は強くもっていないので、淡々と視聴するだけの姿に面白味がない。そこから主人公が映像を何度も再生して手がかりをさがしていく展開は悪くないが、ならばいったん配信映像をワンカットで映してモキュメンタリーのような恐怖を演出してから、気になったところだけ再生しなおす描写で良かっただろう。
 また、呪いの配信映像の撮影場所が炎上する前には、貞子の生まれ変わりとされる幼い超能力少女が監禁されていたのだが、物語がとっちらかる要因にしかなっていない。孤独に育った人間として主人公と共感したりはするが、少女自身がさまざまな恐怖に直面する法則がよくわからないし、途中からずっと病院にいるため遠くまで弟をさがしにいく主人公とかかわらなくなってしまう。呪いの源流でとってつけたように姿をあらわすが、主人公へ敵意がないので危機感がないし、弟を救うサスペンスのノイズでしかない。


 何より、『リング』にあった良さの多くが欠けていた。呪いの法則がはっきりしないのでタイムリミットサスペンスが機能しないし、呪いの原因らしきものが複数あるので謎を解いてもドラマが収束しない。貞子の描写はつかいふるされたパターンばかりで新たな恐怖のアイデアがない。クライマックスの巨大洞窟で広大なセットをつくっているのに、地面が平坦でセットにしか見えない。結末のツイストが平凡なパターンでしかなく、意外性と納得感が両立していた原点の良さがない。
 何にしても全体として恐怖描写が少なく弱く、メインキャラクターの切迫感も弱いため、弛緩した場面が多いところが単純に娯楽として弱かった。くらべると、同じように一時代をきずきながら近年は自己模倣と劣化がはげしい清水崇監督だが、少なくとも新シリーズ1作目『犬鳴村』*3は以前のようにサービス過剰ゆえに、失敗した描写も多いが成功した描写も多く、見ている間はそこそこ楽しめたものだ。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:映画の予告を見ると、今回は見るのではなく撮ることで呪われるというテロップがついていたので、都市伝説を撮影した主人公の弟だけが呪われて、それを助けにいった主人公が余波で呪われたと考えるべきか。

*3:hokke-ookami.hatenablog.com