法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『高校鉄拳伝タフ』ROUND1/ROUND2

 父親に特殊な格闘技の指導を受けて育った少年「キー坊」。その父親とかつて戦って決着をつけられなかったプロレスのスーパースターが、さまざまな戦士を送りこむ。キー坊は父親の露払いのように戦うことになるが……


 猿渡哲也の人気漫画の連載終盤に発売された、各話40分以上の中編OVA。後に『銀河鉄道物語』を手がける西本由紀夫の初監督作品。

 ヤコペッティの残酷ドキュメンタリ*1や食人族映画の発掘DVD化など、良く言えば映画史の裾野を発掘していた会社スパイクが、『天地無用!』で知られるAICに制作を担当させた。
 2001年から2002年にかけて販売されたが、デジタルの彩色も撮影も違和感がなく、アスペクト比もワイドサイズで、すでに技術的には安定している。


 ROUND1から主人公まわりの設定説明は最低限で、主人公ではなくその父との戦いに執着する敵キャラクターがドラマをひっぱる。その敵はアントニオ猪木ジャイアンと馬場のふたりをモデルにしたとおぼしきプロレスラーで、かなり奇天烈なキャラクターなのに若本規夫がまだまだ過剰ではない渋い演技をしている。
 主人公が過去の因縁を背負わないことで、戦い好きの性格を素直に出せて、前座として迷わず連戦できるバランスが良い。娯楽として主人公のアクション量を増やしつつ、ドラマの重さに足を引きずらせずにすんでいた。


 ROUND2はギャグ色が強め。アバンタイトルの戦いからして、恐ろし気に登場した敵キャラクターが格闘物の漫画やアニメでお約束の行動をとって自滅し、軽いラブコメ展開の踏み台となって終わる。
 しかし実在モデルがいる敵キャラクターが、戦いを煽りながら今は勝てないからと戦いもせず尻尾をまいて撤退したところでエンディングになってしまった。
 準備を整えた再戦についてだが、エンディング後に次回予告まであるのに、スパイクが2002年に映像事業をやめたためか、完結編のROUND3は海外版にのみ収録されて、国内では発売も配信もされていない……ウ……ウソやろ……こ……こんなことが……こんなことが許されていいのか


 なお、作画は期待以上に良好だった。アニメーター集団のスタジオへらくれす所属で、後に『バジリスク』の監督としてブレイクする木崎文智が、キャラクターデザインを担当。原作から情報量を落としつつ目鼻立ちなどで絵柄の雰囲気をつかんだデザインが濃すぎずバランス良い。
 アニメらしく線が無駄に多いこともなく、要点を押さえれば絵柄に統一感が出るデザインでカットごとのアニメーターの個性を許容する。関節技が多い作品なのに、動作を手描きアニメーションで表現できている。原画はAICがらみで参加できる良質のアニメーターがつどいつつ、橋本敬史なども参加。
 スタジオへらくれすはコンテ演出作画そして人脈そろった完全職人集団だァ

*1:ちょうどサービス終了間近のGYAO!で初無料配信をしている。 gyao.yahoo.co.jp