法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『キングダム』

いくつもの国にわかれて勢力をあらそっている春秋戦国時代の中国大陸。奴隷として生きている孤児の信と漂は、将軍になる夢をもって剣技を独学でみがいていた。
たまたま通りがかった大臣によって漂だけが王宮にめしかかえられ、信はひとり奴隷としての生活をつづける。しかし漂が選ばれたことには剣技以外の理由があった……


人気少年漫画を原作とした、佐藤信介監督による2019年の日本映画。金曜ロードSHOW!での地上波初放映で視聴した。
kinro.ntv.co.jp
公開から放映までが早く、しかも放映枠を拡大しての本編ノーカットだったのは、映画の続編が制作決定したことを告知するためだろうか。
昨年にVFXを制作したピクチャーエレメントが倒産したことが記憶に新しく*1、続編が制作できること自体に驚いた。ただ、後述のCGWORLD記事によると、VFX制作の中心はSpade&Co.がつとめたらしい。


映像そのものはVFXの粗も目立たず、大陸らしいスケールをちゃんと表現できている。
VFXアナトミー:できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』 | 連載 | CGWORLD.jp

2018年4月8日(日)クランクイン。まずは20日間にわたって中国で大規模な撮影を実施。その後、6月13日(水)のクランクアップまでは、東映撮影所のスタジオ内に組まれた王宮セットや国内各地の ロケーションにて撮影が行われた。

撮影の多くを韓国でおこないながら違和感なくしあげた『アイアムアヒーロー*2の延長で、中国の大規模オープンセットで撮影した素材と国内のスタジオセットの素材が見事に融合。合成などの境界線が目をこらしてもわからない。
あいかわらず佐藤監督の日常演出はあまりうまくなくて、食事シーンでも漫然と撮影しているだけだが、そうした風景も珍しい文化を舞台としているおかげで非日常的な面白味があった。
物語を少年ふたりが立場をかためて夢を再確認するまでにしぼったのもうまくいっている。遠い時空の長い物語なのに、登場人物の対立項と目的が明確で、ドラマを追いやすい。おまけに大規模な戦闘シーンが回想の逃走劇などの一部ですんで、スケール感を維持したまま制作リソースが不足しない。
長澤まさみが演じる少数民族の王の強さや、大沢たかお演じる大将軍の非男性的な演技など、原作をふまえてジェンダーを超えた強さで魅せるキャラクターも多く、現代的な良さがあった。


ただ、いくら原作を踏襲しているとはいえ、主人公の言動が現代日本の不良少年と大差ない残念さがあった。日本人の俳優が演じている空気感が出てしまい、せっかく情景に力を入れているのに主人公まわりはところどころTVドラマのようなスケールになっている。
おそらく、シネマスコープサイズの左右を切ってビスタサイズにしていることも、TVドラマのような映像に感じた一因だろう。クレジットを見せるためにトリミングしていないと思われる冒頭や結末の一部では、近年の日本映画としては充分に風格ある映像に感じられた。
映像作品としての評価は、画面サイズも本来の意図通りの情景で見ないと難しい。Amazonプライムビデオに入っているので、時間的な余裕ができれば視聴しておきたい。

キングダム(映画)

キングダム(映画)

  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: Prime Video