法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』ビルマ 絶望の戦場

主要な戦力を失い、独立させた現地にも離反された日本軍の、無謀で無意味な末路を描く。初回は終戦記念日に放映され、8月17日早朝に再放送された。
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無謀なインパール作戦よりも多くの死者を出したこと、それが沖縄戦と同じように本国の降伏後までつづいたこと。終戦記念日に放映されたことに意味がある。


川をはさんで26万人の英国軍を3万人の日本軍で押しとどめようとした田中新一参謀長。対米開戦を強硬に主張した人物という説明に、圧倒的な戦力差を考慮しない一貫性が悪い意味で感じられる。
他にも肉声で紹介される将校の証言はどれも軽く、司令部への批判ですら笑い声が混じる。例外は、当時27歳で大学を早期卒業して入隊し、日本軍に失望していった若井徳次少尉の手記だけ。前線からぼろぼろで帰ってきた将兵は、内地から出店してきた芸者遊びにうつつをぬかしていると上層部を批判する。
スパイとされた罪もない現地人を撃つよう命じられたのは初年兵などの末端ばかり。命令されたからと自己正当化しつつ、何の意味もない殺害であったことを認めていく。傷ついた兵士を看取ることになった看護士が、鹿児島などの方言がきつくて最期の言葉が聞きとれなかったと悔やむ姿は、いっそう悲愴だった。


悪名高いインパール作戦を時系列にそって再現しようとした2017年の番組の、後日談として解釈すると、いっそう嫌な味わいが出てくる。
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記録から推定される戦死者を地図上に配置していく演出も同じ。戦争全体における位置づけを年表とてらしあわせて、日本軍が敗北していった過程と、失われた命の膨大さを実感させる。
ただし番組内でも言及されるように、現在のビルマすなわちミャンマーでは国軍と市民の戦闘がつづいている。そのためか2017年に比べると現地取材が足りない感じはあった。
かわりに日本と英国に残る証言や調査で多角的に戦場を再現。そして住民に被害が出ている軍事衝突の現在を、武力ではなく外交で独立しようと変わった戦後アウンサンの凶弾に倒れた姿に重ねる。


構成や対比の妙もふくめて、全体としては水準的によくできたドキュメンタリだと思う。ただ、中盤で描かれた司令部数人だけの首都撤退が、他のさまざまな描写の印象を弱めた感もあった。描かれた多くの愚行や悔恨をすべて足しても、司令部とは比較にならないと感じてしまう。
その撤退を決定した木村兵太郎司令官は英国軍に尋問された時、ビルマ方面軍を全滅させるわけにいかなかったとこたえている。もちろんビルマ方面軍や移住者はとりのこされたままだったし、むしろ徹底抗戦を命じていたことが明らかにされる。
ちなみに番組では描かれなかったが、木村は無事に帰国こそしたが、A級戦犯として処刑され、靖国神社に合祀されている。