真珠湾攻撃に向かう兵士たち、初戦の勝利にわきたつ庶民、そして戦争目的の乖離をうれえる陸軍の一参謀の手記をとおして、対米戦争開戦の雰囲気を描き出す。
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太平洋戦争がはじまってから八十年、すなわち日中戦争は無視して、真珠湾攻撃にはじまる対米戦争を重視したシリーズ。
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12月5日の本放送ではなく、8日から9日にかけての再放送で視聴した。
モノクロの写真や映像を着色したり真珠湾へ突入するパイロット視点をVRで描いたりとデジタル技術を演出で多用しつつも、ドキュメンタリとしては手記を静かに読みあげて情報を積みかさねる。
陸軍参謀の日記から引用することで、東南アジアに侵攻した日本軍がたびたび略奪や強姦をおこなっていた問題も言及された。
『夕刻、コタバルに飛び、渡辺大佐と共にケランタン州の政務を聴取す。皇軍の掠奪強姦を嘆す』(石井秋穂 日記より)
『シンゴラ埠頭を見る。ここも皇軍の掠奪強姦に悩めり』(石井秋穂 日記より)
シンガポールの華僑虐殺にも言及され、数万人規模の犠牲者を出したと考える専門家もいることを指摘する。
元第二野戦憲兵分隊長・大西覚「華僑(中華系住民)に対しては相当深刻な注意をせなきゃならんと。不逞分子をもう虐殺して殺して処分していいと。これはえらいこっちゃ、そんなこと言ったって十分調べてもおらんし、もう本当の容疑で、これが本当の敵性で、抗日分子で何するという確証はない。それをすぐに虐殺せよということはですね、非常に人道に反するしいかん。嫌だった。でも命令ならしようがない」(1978年3月18日収録 日本の英領マラヤ・シンガポール占領史料調査フォーラム調べ)
昨年にNHKがツイッターでこころみた、さまざまな立場の手記を引用することで当時の視点を追体験する手法。演出を優先した時系列の編集や、断片が切りとられるSNSの特性に注意していないこともあって批判をあびたが*1、ドキュメンタリとして定石的な手法であることも間違いはない。
ただ、「自存自衛」と「大東亜共栄圏」という戦争目的は両立しないという石井秋穂の批判は、たしかにそれ自体は正しいのだが、この番組だけでは「自存自衛」という目的だけなら良かったかのように解釈できる問題も感じた。
初期は公式の戦争目的を「自存自衛」にとどめながら、初戦の快進撃にあわせて「大東亜共栄圏」という見解が公式にもつかわれだしていくという流れの指摘は興味深かったのだが、それは初期の目標ならば達成できたことを意味しない。
大東亜共栄圏をつくらずとも米国やオランダから石油を輸入できれば戦争を止められるというが、まさか真珠湾攻撃後にやすやすと日本の要求をのむかたちで米国が講和に応じるとも思いがたい。
そもそも石油の禁輸措置は日本が中国へ侵攻したためにおこなわれたのであり、「自存自衛」という表現は現代社会からふりかえれば明らかに誤りだろう。