「ろくろでハッピークリスマス」は、のび太はプレゼント交換に良い物を用意できなかった。しかしドラえもんが秘密道具でプレゼントをつくっていることを知り……
綿種アヤ脚本、矢嶋哲生コンテのアニメオリジナルストーリー。
冒頭の日常の一コマがいきなり面白い。世界にひとつだけのクリスマスプレゼントを贈りあう話題で、ひとつだけ売れてなかった特売の筆箱だけ買えたのび太が確信をもってスネ夫に対抗しようとするが、教室に同じ筆箱をもった者が何人もいることに気づいて絶望する。みみっちさのレベルが原作のキャラクターになじんでいる。
そこから既存の物品を秘密道具で変形してプレゼントにする展開も、バレンタインチョコが既存のチョコを溶かして固めなおしたものと比べれば、まったくおかしくないし、同時にみみっちさが残っている。
のび太がゆがめた筆箱にドラえもんは苦笑しているが、大量生産されたありふれた商品を機能をのこして形状をゆがめたプレゼントは現代美術的。パピヨン本田による二次創作『美術のビジュえもん』を思い出す。おもしろグッズとして喜ばれる描写も納得できる。骨川家のクリスマス料理もちゃんとそれらしく作画されているので、その形状を好き勝手に変える楽しさもつたわってくる。
スネ夫がジャイアンによって事故的に変形させられるオチも期待どおり。のび太が最初に失敗した時、秘密道具の回転に巻きこまれていたので、人間を乗せても機能してしまうパワーや安全装置などないことの説得力がある。
「空とぶドラミ!?ミニ熱気球」は、窓からいきなりミニチュア飛行船がはいってきたことにのび太とドラえもんがおどろく。それはスネ夫の操縦するスネ吉製のラジコンだった……
2006年に安藤敏彦コンテ演出でアニメ化した後期原作を川越淳コンテでリメイク。2023年にに公開される映画にあわせた原作選定だろうか。
のび太の部屋から気球が出ていく時のレイヤーを異なる速度で拡大縮小した奥行き表現や、窓をくぐりぬけるシチュエーションで気球がレイヤーを越えるように感じさせる面白さ、住宅群を別レイヤーで動かして上昇を表現した演出など、物体が飛行するプリミティブな面白さが映像にあふれていた。
ジャイアンとスネ夫が落とした気球が暗闇にある理由を、ただ土管に入れた原作とちがって布で両出口をおおったりと、細かいアレンジも悪くない。飛行船の操縦席が分離して飛行機に変形するギミックも、現実に飛行船に飛行機をつりさげて空中空母にした事例もあったし、スネ吉がつくったという説明があったので納得できる。その飛行も空間を広く見せてスピード感があり、気球と相対速度が違いすぎて攻撃できない説得力を映像で出せていた。
ただオチで普通の線香のかわりに蚊取り線香を熱源に利用する原作描写をそのまま引いたのは、いくら気候変動で秋遅くまで蚊が発生するようになったとはいえ、季節感に欠けてしまった気がする。ここは冬でもおかしくない熱源をひねりだせなかっただろうか。たとえばクリスマスケーキのキャンドルを乗せて、溶けおちてくる蝋で火傷しそうになるとか……