法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ななころびてんとう虫/実感帽

「ななころびてんとう虫」は、ジャイアンが転んだのをのび太が見て、つい笑ってしまい怒らせてしまう。あわてて帰ったのび太だが、おつかいに行かなければならない。そこでドラえもんが秘密道具を出す……
  志茂文彦脚本に平井峰太郎コンテで「ころばし屋」をアレンジしたようなアニメオリジナルストーリー。2005年リニューアル以前の1998年につくられたエピソードを現体制で作画しなおした初の試み。
 平井峰太郎コンテを今の『ドラえもん』の体制で作画すると、不思議と通常よりパースを重視したレイアウトが多い感じがある。微妙な俯瞰が多いのと、PANと併用して近景と遠景の人物の距離感を見せるのが多いのと。
 選ばれただけあって秘密道具のネーミングやデザインや機能はかなり原作者に近いし、のび太ジャイアンの関係が少し修復して終わるあたりが少年の成長を描こうとする当時のTV版らしい。ただしちょっと設定が複雑というか多めかな。たとえば虫カゴは外出してすぐに破壊されるのだから、もっている人間だけが命令できる設定は削れるだろう。秘密道具は一回転ばせたら虫カゴにもどる、くらいのシンプルさに整理したほうがわかりやすい。


「実感帽」は、のび太が想像のラジコン飛行機で楽しんでいたところ、哀れに思ったドラえもんが秘密道具を出してやる。それは想像した存在がより実感的に現れるというもので……
 中期原作を2005年リニューアル後に初のアニメ化。小倉監督コンテで、冒頭のPOVは部屋の背景美術一枚を撮影してカメラワークを表現しているだけだが、レンズを意識したゆがませかたやカメラの動きで成立させている。
 そこから最初は妄想しているキャラクターひとりが映っている時だけ妄想の対象も映されるかと思ったが、妄想の存在が映ったり映らなかったりする法則は特にないようだ。しかし一人芝居するキャラクターを映すだけでギャグとして楽しいし、それを白眼視する周囲がギャップをきわだたせる。そして物語の結末でジャイアンが何を見ているか、読者には見せない原作と同じように今回のアニメでも視聴者に見せず、想像力を喚起したところも良かった。
 アニメオリジナル描写として、のび太が巨大ロボットを出すビジュアルは派手でいて日常に異物が混じる風景が楽しく、それでいてストーリーのノイズにならず原作展開へ自然にもどる。デザインの微妙なダサさものび太のセンスにあっている。
 スネ夫が大型犬を出すところもアニメオリジナルだが、最初に出したものは家にある物ばかりという満たされすぎた子供ゆえの想像力の欠落に味わいがあったし、そこで出したのが他人が散歩させているようなペットというあたりに微妙な孤独感がある。これは深読みしすぎだとは思うが。