法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ダロス』

遠未来、植民された月からおくられる物資で地球文明は再興することができた。しかし月に住む人々は労働と生活に苦しみ、抵抗の火種がたえない……


1983年から発売された全4話のOVAスタジオぴえろのロボットアニメ企画を鳥海永行と押井守が共同で監督し、TVアニメにできなかったかわりに世界初のOVAとなった。

総集編『ダロススペシャル』を数十年前にVHSビデオで購入して視聴したきり。最近になってDVDを購入し、はじめて全4話を時系列どおり*1に視聴した。


かなり尻切れトンボな記憶があったのと、「ダロス」の設定がモノリスのように説明不足な印象があったが、きちんと見ると意外とSF植民闘争としてストーリーがまとまっている。
地球の記憶をもっていて故郷に奉仕するつもりの第一世代と、環境に不満をもって武力抵抗を選ぶ第二世代、どちらにつくか悩みのなかにある第三世代という植民地の世代ごとに、異なる局面で異なる抵抗を選ぶ。
DVDのライナーノートで藤津亮太氏が、鳥海監督の世代は政治に向きあうが、押井守監督の世代は趣味に生きるという時代の端境期だったことを指摘している。その意味では第三世代たる主人公が第1話でメカいじりをする描写が象徴的だ。もっとも、それ自体は『機動戦士ガンダム』の第1話へのオマージュというだけかもしれないし、さらに深読みすれば『機動戦士ガンダム』の時点で若者は政治より趣味に生きつつあったということかもしれない。
しかしうまく各世代の視点で描かれていて、第三世代の主人公のありようを全肯定はしていない。きちんと植民地闘争らしい群像劇になっている。DVD収録メイキングの押井守コメントにあるように、スタジオぴえろのモブ描写のうまさが効果的。ひとりひとり個性を感じさせる顔つきや姿勢で作画されているし、逃走*2も暴動も劇場アニメのようにきちんと動かしている。
そして「ダロス」の暴走により、抵抗はなしくずしで終わり、植民政府の陰謀も終わる。統制と抵抗はつづく結末だが、ひとつの大規模な抵抗をとおして世代間の温度差を描くドラマとしては完成されていた。一方で植民政府も、会議では弱腰なばかりの総領事が、「ダロス」の暴走にあたっては緊張感をもって行動をひかえるよう指示したりと、群像劇らしい味わいがある。


タイトルになっている「ダロス」は由来が不明瞭な超技術なことは記憶どおりだったが、異星人の遺産などではなく、一世紀にわたる月面植民の直前に建設された遺物と説明されている。
翌年にアニメ映画化された『風の谷のナウシカ』のクライマックスで人々が逃げこむ先史宇宙船の遺物のようなもので、SFとして充分に成立する設定だろう。反政府勢力が遺跡を拠点とすることは現実にもある。
ついでにDVDに収録された数分間のパイロットフィルムは本編の試作ではなく、作品前史の設定をイメージボードにナレーションで説明するという独立した内容になっていて、作品を理解する補助線となっていた。


映像面では、やはり山下将仁作画が最大の見どころ。ボリュームたっぷりで、ほとんど作画修正されていない生の絵が楽しめる*3。ライナーノートによると、3話から4話にわたるクライマックスだけで220カットも手がけたという。
しかし先述のように山下将仁作画でなくても、モブシーンも充実しているし、薬莢が大量に階段を落ちたり低重力で飛んでいく有名な描写も、手間をかけた手描き作画で満足感がある。内容の派手な2話が先に発売された作品だが、1話だけでも地下鉄に逃げる反政府勢力を鳥足メカが追いかける冒頭にボリュームがあるし、メインスタッフが連続しているのでキャラクター作画が古臭いなりに安定しているので、見ていて期待外れに思う映像もなかった。
あと、エンディングで各キャラクターがストップモーションのように止め絵になる演出は、押井守が監督として再起した『機動警察パトレイバー』のOVA版最終エピソードを思わせる。やはり押井演出の原型としても見どころが多い。

*1:後述のように、アクションの派手な2話が1話に先行して販売された。

*2:誤変換ではなく、第1話冒頭の抵抗運動の逃亡などを指している。

*3:ただしライナーノートに記載されているが、衛星のオペレーターは作画修正のため服装デザインが変わっているとのこと。