法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

藤子不二雄Ⓐ、死去

いつまでもトキワ荘の証人として生きつづけていきそうな印象があったため、頭では理解しているが心が納得できないでいる。
【訃報】漫画家・藤子不二雄Aさん(88)死去|TBS NEWS
代表作だろう『魔太郎がくる!!』『笑ゥせぇるすまん』のような不気味な連作短編はこわごわと読んでいて*1、先駆的でいて完成度の高い非野球スポーツ漫画『プロゴルファー猿』も読む機会があれば楽しんだくらいで、あまり良い読者ではなかった。
それでも青春の輝きと苦しみを描いた『まんが道』は思春期に読んだため忘れがたく、どのトキワ荘の住人も現実のそれより強烈に印象づけられている。


また『怪物くん』は、カラー版のアニメ作品は楽しみつつ*2、ながらく原作は未読のままだった。まだ絵柄がかたまっていなくて、同時代の藤子・F・不二雄と比べて絵として稚拙さを感じたのも要因だった。
しかし最近になって初めて読んで、ホラーにかぎらない映画趣味が全体にあふれている意外性と、外見から文化まで異なるさまざまな人々を受けいれていく物語に時代を超えた力強さを感じた。

何より意外でかつ不思議な運命を感じたのが、『怪物くん』の連載予告で主人公は後ろ姿しか見せていなかったという逸話だ。
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藤子不二雄Ⓐこと安孫子素雄さんの本「夢追い漫画家60年/藤子不二雄Ⓐ/PHP研究所」を読むと、P21~23に「怪物くん」の話が記載されています。
「連載のひと月前に予告を載せることになりました。そこで僕は、後ろ向きの怪物くんの前に、びっくりした顔のフランケンとドラキュラとオオカミ男を描きました。『この三人がびっくりしている相手の顔はどんな顔?来月号をお楽しみに!』というわけです。読者にワクワク感を持たせるいい方法だと思いました」。
「しかし、実は、怪物くんを後ろ向きにしたのには理由がありました。予告掲載の時、僕は怪物くんがどんな顔をしているのかを決められていなかったのです」。

共同ペンネームをもちいて、作品について相談したりスタッフを融通しつつも、当時から個別に創作していた藤子不二雄
藤子不二雄Ⓐが主人公のデザインを決められないまま1965年から『怪物くん』の連載をはじめたように、藤子・F・不二雄も主人公のデザインを決められないまま1970年から『ドラえもん』の連載をはじめた。
「ドラえもん」6種類の第1話を収録した“0巻”が12月発売、カラーページや予告も - コミックナタリー

0巻には“伝説の予告ページ”も当時のまま収録。これは連載開始号の前号に掲載される予告ページの締切までに、藤子・Fが作品のアイデアを思いつかず、主人公の姿を描かずに「出た!」という吹き出しのみで告知したと言われているもの。

合作漫画家として出発し、日本の子供漫画を代表するふたりが、新連載のたちあげに追われて似たようなことをやらかし、結果それぞれの代表作のひとつとなった。
そこにある種類の運命を感じたし、当時の漫画界が良くも悪くも勢いまかせだったことがうかがえる。

*1:手元にあるのは原型的な短期連載『ブラック商会 変奇郎』のみ。

*2:TV版はカラーもモノクロもDVD-BOX化しているのに、福富博監督らしいアクション満載の劇場版がDVD化されていないらしいことが残念。モノクロ版の劇場版はDVD-BOXに収録されているだけでなく、年度ごとの「東映まんがまつり」全作を収録する企画DVDにも入っているのだが。