プリキュアに変身する夢を見た夏海は、ローラが人間の世界に残るか次期女王になるか選択をせまられていることを知る。ローラに心残りがないよう夏海が動いたため、その選択問題をトロピカる部のみんなも知ってしまうが……
前回につづいて土田豊シリーズディレクター演出に、中谷友紀子キャラクターデザイン作画監督。変身ノルマは夢オチで処理して戦いが終わったことを実感させ、物語はトロピカる部が学校をまきこんだイベントと、その関係性からの卒業が本筋。
まず人魚の記憶をうばう装置について、つくられた理由が明かされる。敵まわりの設定がきれいにまとまったことで忘れていたが、そういえばドラマとして決着をつけていなかった。なるほど寿命の違いから別離がつらくなって記憶を捨てたというなら、それなりに理解はできる。過去の歴史で記憶喪失に抵抗した人魚がいたとしても、長い時間をへて現代までに捨てることを選んだのだろう、という想像もできる。
再会が昨日の今日かい!というツッコミどころはあるが、記憶喪失に抵抗するベタネタで敵幹部の出番もつくれたし、この作風なら許せる。ズルい。Cパートで次作の主人公にあわただしくひきつぎを終えて、今作の主人公の最後の台詞が犬の糞をふんだという滅茶苦茶さも、まあこの作品ならアリか。ズルい。
最終回なので全体の感想も。
このシリーズは毎年のように、少ない準備期間とリソースで一年間つくりつづけるTVアニメとして、挑戦と完成のバランスに苦労していると感じている。
なかでも今作はシリーズ構成の横谷昌宏をはじめシリーズ初参加のスタッフがメインに多いためか、決まった部分と滑った部分、崩れた部分と立てなおせた部分が、例年の傾向と違っているところが興味深かった。
象徴的なのが大地丙太郎監督で、OP演出は得意なパターンで楽しくしあげていたが、本編のギャグはテンポがゆるくて笑えず、シリアス作品で魅力的だったアクション演出も期待したほどではなかった。しかし後半に入り、悪ふざけのようで作品を象徴するエピソードを担当し、シリーズの枠組みまで壊してみせた。
『トロピカル~ジュ!プリキュア』第33話 Viva! 10本立てDEトロピカれ! - 法華狼の日記
今作でOP参加を知った時から期待していた大地丙太郎ギャグ満載のエピソードがついに放映された。
一方で問題点として、プリキュアキャラクターの機能しづらさがあった。特に、序盤で期待させた夏海の野生児ぶりとローラの傲慢ぶりが、エピソードをかさねるにつれて精彩を欠いていった印象が強い。
『トロピカル~ジュ!プリキュア』第1話 トロピカれ! やる気全開!キュアサマー! - 法華狼の日記
定番のスポーツマンとも違った野生児的な真夏と、人間と距離をとって自身の目標しか考えないローラ。これだけシリーズを重ねて、また新たな主人公像が提示された。
特にローラの“悪い子”ぶりは、天然か優等生が多いシリーズで貴重。
ローラについては、プリキュアに変身するため人間化して個性が消えた問題もあるが、声優が新型コロナにかかったことが中盤の活躍の少なさにつながったとも考えられる。しかし夏海の問題は根深く、外からやってきて色々なことに驚く設定のため主体的に動くことができず、各話においては実質的ににぎやかしでしかないことが多かった。最初に設定したフォーマットが、実際に適用するとキャラクターの印象と齟齬をきたしていくつくりになっていたのだ。
鈴村も、化粧というメインモチーフと密接な設定でありながら、その化粧はほとんどの話で超常的な変身としておこなわれるので、期待したほどには本筋にかかわることができなかった。滝沢は年下の仲間より同世代の旧友との因縁が強く、それは魅力的なドラマではあっても、本筋とは分断されていた印象が強い。
予想外に良かったのは真顔で笑いを提供する一之瀬で、マイペースな行動からシュールな笑いで雰囲気を転換させることができた。底抜けに明るい作風と、周囲にツッコミが少ない環境のおかげもあって、天然で笑わせる過去作の知的プリキュアとも差別化できていた。
さらに良かったのは敵組織の人間模様。序盤はやる気のない設定もあいまって凡庸な印象しかなかったが、過去になく穏健で温和な組織として描かれつづけたことで印象が変わってくる。それでも終盤は凄惨な物語になるかと思いきや、実は首領はすでに救済されていて、足りないのは踏み出す勇気だけだったと明かされた。
『トロピカル~ジュ!プリキュア』第44話 魔女の一番大事なこと - 法華狼の日記
明かされた魔女の背景は、もともと「破壊の魔女」だった魔女が人間の娘と仲良くなってしまい、その娘がプリキュアになったことで、決着をさきのばししつづけたというもの。一話一体ずつ敵が襲ってくるパターンに、新たな理由づけがおこなわれた。
そして敵の隠していた動機にあわせて、「今一番大事なこと」と「後回し」というキーフレーズが、メインテーマとして説得的にかたまっていった。連続ストーリーに変化をつけるため敵組織を刷新したり、諸事情で当初のテーマを貫徹できなかった過去作も多いなか、ここまでメインテーマとラストバトルが合致するとは思わなかった。
基本的に笑いを重視した今作で、各話のクオリティは良くも悪くもばらつきがはげしく、設定の整合性に不安を感じさせるエピソードも多かった。そのため連続ストーリーとしての完成度は期待していなかった。
しかし見終えて最も好印象だったのは、逆にその連続ストーリー部分だった。各話で決まったり滑ったりしたギャグ演出も、それ自体の面白味よりも、ストーリーのシリアス度やドラマのスケールを調節する役割りが大きかったように思える。その上で決まったギャグはインパクト絶大で忘れがたいわけだが……